私は隼人くんが心配で台所に行こうと立ち上がろうとした時「ねえ、史緒」と快人くんが控えめに田辺を呼んだ。
「ほんとに、いいのかな」
「ん?」
「オムライス、食べてっても……」
快人くんの言葉に、田辺は少し笑って立ち上がる。
「じいちゃんが良いって言うんだから、良いんだよ。 じいちゃん料理好きだし、食べてもらえるの嬉しいんだと思うよ」
その時、台所から「まず、兄ちゃんと手洗ってこい」と声が聞こえて、その後すぐに隼人くんが「おにーちゃん! 手洗おー!!」と言いながら台所から顔を出した。
すると、台所の奥から「あ、ケチャップが足りねえな」と声が聞こえた。
「お、俺、さっきケチャップ買ってきたから家にあるけど……」
快人くんは台所を覗くと、大塚さんは「そうなのか」と言った後に「でも」と言い換えた。
「それは、今度自分でオムライス作る時に取っておけ」
腕まくりをした大塚さんが台所から出てきたため、今度は私が声を掛けた。
「私、足りないもの買ってきます」
「そうか。 じゃあ、あと卵も一パックも頼む」
大塚さんは、電話が置かれた棚から財布を出して三千円を取り出すので、私はちょっとびっくりする。
「こ、こんなに?」
「他にも、子供が好きな菓子とか……アイスとか、買ってきてくれ」
「は、はい」
三千円を受け取ると、大塚さんは「で、どっちがどっちなんだ?」と快人くんと隼人くんを交互に見て言う。
「ぼくが隼人!」
「か、快人です。 ……俺も、紗季さんと買い物に……」
「なあに言ってんだ。 快人は、ねーちゃんが買い物行ってる間にケチャップライス作るぞ」
大塚さんは再び台所に戻ると、隼人くんも「ぼくも作る!」と言いながら大塚さんを追いかけるように台所に戻って行った。
「快人くん、行って来るね」
「うん……。 史緒は、どうする?」
「俺も買い物行くよ。 荷物持ちとかは、できないけど」
「じゃあ、一緒にお菓子選んでよ」
「任せろ」
「いいなあ……」
「おにーちゃん! 手洗ってー!!」
再び台所から顔を出した隼人くんに呼ばれて、快人くんは「分かったよ」と返事をして腕まくりをしながら台所に向かって行った。