「…………なんで、史緒なんだろうなあ…………」

そう言う声は震えていて、大塚さんの顔が見えなくても涙を堪えているのだということが十分すぎるくらい伝わって、私は胸のぎゅっとした痛みに耐えながら、膝の上に置いた自分の手をさらに固く結ぶ。

……なんで、田辺なんだろう。 どうして、田辺は死んでしまったんだろう。

大塚さんが、その答えを私に求めている訳ではないことは分かる。 交通事故で亡くなってしまったら、それはきっと、不意な事故である筈だから。

だけど、私なら、それを田辺に聞くことが出来る。 でも、田辺が遭った交通事故が、もしも、不意ではなく故意だとしたら……。

私は、それを知るのが、何よりも怖い。 出来れば、知りたくないとさえ思ってしまう。

……でも、知らないままで、いいのだろうか。

その時、遠くの方からチャイムの音が鳴っているのが聞こえた。 ふと、居間の壁掛け時計を見ると、ちょうど夕方の5時になった所だった。

「隼人、そろそろ帰るよ」

縁側から、快人くんの声が聞こえて私はそちらを見ると、まめ太と田辺の隣に立っている隼人くんがボールを持って頬を膨らませていた。

「やだっ、もっとまめと遊びたい!」

「わがまま言うなって」

「やだ! おにいちゃんのぐちゃぐちゃ焦げオムライスも嫌!!」

「そ、それは仕方ないじゃんっ」

「おい~、喧嘩すんなよぉ」

縁側に座ったまま小さなふたりに声を掛ける田辺は、仲裁する気があるようで全くないようにも見える。

でも、もう夕方だし、私たちももう帰らないと……。

「あの子ら、親は」

不意な大塚さんの言葉に、私は「えっと……」と少し言葉を選ぶ。

「お母さんは看護師で、今日は急に当直になったって、お兄ちゃんの快斗くんが言っていました。 お父さんは……いないそうです」

「……そうか」

大塚さんはそう言うと、おもむろに立ち上がって縁側の方へと向かって行く。 縁側に座っていた田辺は、大塚さんに気付いてパッとこちらに振り返った。