「あんたは……史緒と、同じ高校だって言ったな」
「はい」
「…………史緒は、どんな子だ」
私はドキリとして、「えっと……」と言いながら湯呑みをテーブルの上に戻す。 大塚さんは視線を下げていて、目線は合わなかった。
「……田辺は、明るくて……いつもクラスの真ん中に居て、勉強も運動もできて、すごく優しいです。 こんな良い人っているんだなって、思ってました」
私も視線を下げて、膝の上で丸まった自分の手を見ながら言う。
いま思い浮かべられる田辺の姿は、教室の真ん中でクラスメイトと楽しそうに笑っている様子ばかりで、屋上で一緒に過ごした田辺を思い出そうとしたら、私の隣で呼吸をするのを忘れてしまったみたいに、ふとした時に表情を暗くした田辺の姿だった。
私は、あの時に感じていた何とも言えない不安まで思い出して、思わず縁側に視線を向けた。 そこには、さっきと変わらない様子で縁側に座る田辺がいる。
田辺は、屋上にいる時、一体何を考えていただろう。
田辺は、どうしてあの日、屋上に来たんだろう。
そう疑問に思えば思うほど、田辺のあの仄暗い表情や田辺が住んでいたアパートの部屋、盗まれると溜め込んでいたバイト代のことが、私の思考をどんどん暗い方に引っ張っていく。
そして、何よりも、田辺が自殺だったのではないかという疑念が、私の胸の中を黒く染めていく。
膝の上で丸めた手に力がこもる。
「……あんたは」
低い声に私はハッとして、田辺から視線を外して目の前にいる大塚さんを見る。
ここで初めて、大塚さんとしっかり目が合った。
「史緒に頼まれて、ここまで来たのか」