再び縁側へ視線を向けると、さっきまで隼人くんが投げていたボールを口で咥えていたまめ太が、田辺の隣にぴたりと座り込んでいる。

「俺は、投げられないんだよ」

優しい声色で言う田辺を見ながら、まめ太は小首を傾げる。 その後ろで、快人くんが「まめたどうしたのー?」と話しかけている。

田辺は隼人くんを指差して「あの子に投げてもらうんだ」とまめ太に伝えるけれど、まめ太は田辺の手元にボールを置いて尻尾を振る。

すると、田辺は後ろ頭を掻きながらこちらに振り向いた。

「快人〜、ちょっと来て〜」

「え、おれ?」

「俺ひとりじゃ無理だからさ〜、弟泣きそうになってるし」

「ええっ」

快人くんは「仕方ないなあ」と言いながらも、満更でもないような顔で立ち上がる。

「ちょっと、史緒のところ行ってくる」

「うん」

田辺のもとに向かった快人くんの背中を見ていると、「遊びに行ったか」と大塚さんの声が聞こえて、私は顔を上げる。 

大塚さんはお煎餅やチョコが入った菓子盆を戻って私の目の前に座ると、テーブルの私寄りの位置にそれを置いた。 

私は自然と、背筋に力が入る。

「……史緒は、いまどこにいるんだ」

「縁側で、ふたりと、まめ太を見ています」

大塚さんは縁側を、眉間に皺を寄せて目を凝らすようにしてじっと見る。 大塚さんが真っ直ぐ向ける視線の先には、まめ太と遊ぶ小さなふたりを見守る田辺の姿がある。 

けれど、大塚さんは浅い溜息を溢して、ゆっくりと視線を逸らした。

「……あの子ら、向かいのアパートの子だろ」

「は、はい」

「知り合いなのか」

「お兄ちゃんの快人くんと、ここに来る前の電車の中で知り合いました」

言いながら、快人くんと知り合ったのは明確には電車の中だったなと思う。

「そこで……その、快人くんだけが、私以外に唯一田辺のことが、見えたんです」

自分で言いながら、こんな話を信じてもらうことは出来るのだろうかと思う。 

「………………そうか」

大塚さんは、ズズ、とお茶を飲む。 それを見て、私は膝の上にきっちり置いていた手を解いて同じようにお茶を飲んだ。 けれど、思ったよりも熱くて、あまり飲み込めなかった。