「……菓子、あったかな」
そう言いながら大塚さんは立ち上がって、暖簾を潜って向こう側へ行く。 向こうは台所だろうかと思いながら私は「あの、本当お構いなく……」とまた使い慣れない言葉を言う。
すると、茶の間と縁側の間にある廊下から田辺が顔を覗かせて「あれ、じいちゃんは?」と私たちに聞く。
「向こう」と快人くんが大塚さんが向かった部屋を指さすと、田辺は「そっか」と短く言った。
「……あのさ、なんか……ごめん」
「なに、突然」
思わず聞き返すと、田辺は眉を下げてどこか困ったような顔で言葉を続ける。
「無理、させたと思ってさ。 新名も、快人も……」
田辺の言葉に、私と快人くんは顔を見合わせると、お互いにきょとんとした顔をしていた。
「私は、全然……大塚さんには、快人くんが話してくれたし」
「おれ、別に無理とかはしてない。 逆に、隼人のわがままで着いてきた訳だし」
私と快人くんの言葉に、今度は田辺の方がきょとんとした顔をしている。 何をそんなに驚いているのか不思議に思うと、田辺はふっと力が抜けたように小さく笑った。
「……うん、ありがとう」
そう微笑んで言う田辺に、私と快人くんはまた顔を見合わせて、私たちも小さく「ふふ」と笑う。 快人くんは、今まで見た中で一番嬉しそうに見えた。
「それに、隼人楽しそうだし、良かった」
田辺は縁側の方を向いて「ほんとだ」と言うと、ふたりのもとに向かう。 まめ太は隼人くんが投げたボールを器用に口でキャッチして、隼人くんの元へと持って行く。
田辺も、小さい頃はあんな風にまめ太と遊んでいたのだろうか。
その時、隣から「いいなあ……」とものすごく小さな声が聞こえて、振り向くと快人くんと目が合った。 快人くんは「あ、いや……」と目を逸らす。
「快人くんも、遊んで来たら?」
「いや……おれは……」
快人くんは耳を少しだけ赤くして首を横に振る。 その時、縁側から「まめ、俺は……」と田辺の声が聞こえた。