「…………史緒が、そこにいるのか」
大塚さんは、快人くんと私を見る。 私は「そうです」と言う。
「じゃあ、なんで……」
掠れる声で、大塚さんは言う。
「……なんで、俺には見えないんだ…………」
力なく肩を落とした大塚さんに、私も、なんで、と思う。
どうして、この人には見えないんだ。 田辺が、一番会いたかった人なのに。
俯く大塚さんに、まめ太が立ち上がって寄り添う。 大塚さんは、さっきまめ太が持ってきたボールに視線を落として、「お前には、史緒が見えてるのか」と小さな声で話し掛ける。
まめ太は返事をしない代わりに、また田辺に視線を送る。
大塚さんはそれを見て、また眉根を寄せる。 けれど、その表情はさっきのような怪訝そうなものではなくて、田辺と同じように、今にも泣き出してしまいそうなものだった。
「……おにいちゃん」
その時、隼人くんがこの緩やかに重みを増していく空気が怖くなったみたいで、助けを求めるように小さく呟く。 快人くんは隼人くんの頭を撫でて「大丈夫だよ」と返事をした。
大塚さんは、その小さなふたりを見て、はぁ、と溜め息をついて、それから私に視線を移す。
「……あんた、名前は」
「に、新名紗季です」
「……わざわざ、ここまで来てくれたんだろう。 入って、ちっと休んでけ」
大塚さんはそう言ってこちらへ背を向けて玄関へ入ろうとした時、隼人くんが快人くんの背後からタタッと出てきて、さっきまめ太が持って来たボールを手に取った。