「史緒が、死んだ……? …………そんな……そんな話、信じられる訳……」
「じいちゃん……」
田辺はさっきよりも弱々しい声で言って、大塚さんへ一歩歩み寄る。 その時、まめ太が縁側の方へと走ってきてそのまま家の中に入って行った。
「まめ太?」
隼人くんが快人くんの後ろから顔を覗かせると、まめ太は何かを咥えて走って戻ってくる。 そして、咥えてきた手のひらくらいの大きさの青いボールを田辺の足元に置いて、尻尾を振って田辺を見上げる。
その顔が“遊んで”と言っているみたいで、田辺を見つめる目がキラキラと輝いている。
「……まめ、なんでそれを……」
大塚さんはまめ太を見てから、まめ太が見上げる先に視線を移す。 そこには、田辺がいる。
「………………そんなの、信じられるか……」
大塚さんは震える手で顔を覆う。
私は今ここで、大塚さんにも、田辺にも、かける言葉が見つらなくてただ視線を落とす。
「……史緒は、じいちゃんの作るオムライスが美味いって、言ってました」
そう言ったのは、快人くんだった。
「じいちゃんは、料理が上手で、よく作ってくれたって。……あと、子ども好きだって、言ってました」
田辺は、びっくりしたみたいに振り返って快人くんを見る。 快人くんは、「そうだよね、史緒」とここにいる誰よりも優しい声で、田辺を見て言う。
「……うん。 じいちゃんの作るオムライスはさ、世界一美味いんだよ」
田辺は、頷きながら、今にも泣きだしそうな顔でくしゃっと笑う。