ふと、私はドキリとする。 もしかして……そこに、“お父さん”が居たりするのだろうか。

「……か、快人くん」

恐る恐る名前を呼ぶと、快人くんはハッとしたように私の方を向いて「うん」と小さく呟いて、テーブルに置かれていた鍵を手に取ってこちらへ来る。

「快人ー、弟、走って行っちゃった」

玄関の外から、田辺が言う。 快人くんは「ええっ」と慌てたように言って、玄関でしゃがんで靴を履く。

「快人くん、私が閉めておくよ」

「う、うん、ありがとう」

鍵を受け取ると、快人くんは駆け出して田辺の隣を横切って隼人くんを追いかける。 私も玄関から出て、振り返る前に一呼吸おく。

何が見えても驚かないように、そう自分に言い聞かせて、ゆっくり振り返って部屋の中を見てみたけれど、そこには誰の姿もなかった。

私はちょっとだけホッとして、扉のドアノブに手をかけた。

「新名」

「ん?」

キイ、と軋む音がなる扉を閉めながら田辺を見ると、田辺と目が合った。

「じいちゃんが俺のこと見えなかったら、じいちゃんに全部、伝えてほしい」

そう言って、田辺は少し俯く。 前髪が目元にかかって、表情がよく見えなくなる。

けれど、田辺の手はぎゅっと硬く握られていて微かに震えているようで、私は、ここで自分が弱音を吐いてはいけないなと思う。

「……わかった」

田辺は、顔を上げて私と目を合わせる。 それから、眉を下げて小さく「ごめん」と呟いた。

「大丈夫だから、謝らないで」

そう言ってみたけれど、自分の声が震えてしまいそうで、それを誤魔化そうとほんの少しだけ笑って見せる。

「……ありがとう」

田辺は眉を下げたまま、私と同じように無理に、微笑んでくれる。

「うん。 行こう、ふたりが待ってるよ」

私はそう言いながら、扉の鍵を閉めた。