そういえば、電車を降りてから田辺が目指す行き先を聞きそびれていた。
「田辺が行きたいところって、おじいちゃんのところ?」
「うん。 やっぱり、最後にじいちゃんに会わなきゃと、思って。 ……ごめん、こんなことに付き合わせて」
そう言った田辺は、遠慮がちに笑うので、私は「いいよ、全然」と首を横に振った。
「あ、あのさ……あそこの家、犬いるよね……?」
「犬? そうなの?」
私が田辺に聞くと、田辺が答えようとする前に隼人くんが「おにいちゃん、わんちゃん苦手なの」と教えてくれる。
「近くにね、おっきいわんちゃんがいるお家があってね、ぼく、あのわんちゃんに触ってみたいんだけど、おにいちゃんが怖がってダメなんだ」
「べっ、別に怖がってるわけじゃ……!」
「快人、犬苦手なのか」
「だから、別に苦手なんかじゃ…………別に……」
快人くんは言いながら、語尾が尻すぼみしていくので、本当に犬が苦手なことはありありと分かる。
「ぼくは、わんちゃんだいすき! おねえちゃん、あのお家に行くの?」
「うん」
「えー! じゃあぼくもぜったい一緒に行く!」
「お、おいっ」
快斗くんは手をぎゅっと握り締めて、困ったように隼人くんを見る。
「快人くん、私もね、大きいわんちゃんはちょっと怖いと思っちゃうんだ。 だから、2人に一緒に来てもらえると、心強い」
「ぼく、おねえちゃんと一緒に行くよ! ね、おにいちゃん!」
田辺と、私と、隼人くんの視線を一気に集めた快人くんは「うっ……」と小さく声を漏らす。
「そう言うなら、一緒について行ってあげても……僕は、犬は、ぜんぜん怖くないし」
最後は自分に言い聞かせるみたいに言う快斗くんに、隼人くんは「やったー!」と両手を上げて喜ぶ。
「よし。 じゃあ、行こうか」
私と隼人くんは立ち上がって、玄関に向かう。 私は脱いだ靴を履きながら、後ろにいる快人くんの方へ振り向くと、快人くんは仏壇が置いてある部屋をじっと見ていた。