「うち、ここ」
快人くんはそう言いながら、道沿いにある2階建てアパートの前で立ち止まる。
「えっ、ここ?」
そう言ったのは田辺で、快人くんはランドセルから鍵を出して「うん」と小さな返事をする。
すると田辺は、そのアパートの斜め向かいを指さす。 そこには、ブロック塀から木造の家が見えた。
「あそこ、俺のじいちゃん家なんだ」
「えっ?!」
「えっ、なに?!」
快人くんの驚いた声に、隼人くんは「おにいちゃん、どうしたの?!」と辺りを見回す。
その様子を見て、私の疑問はほぼ確信に変わる。 隼人くんは、田辺のこと……。
「ご、ごめん、なんでもない。 隼人、鍵開けて」
「ん? うん、わかった!」
隼人くんは鍵を受け取ると、すぐ目の前にあった部屋の扉に背伸びをして鍵を差し込むと「おねえちゃん、一緒にオムライス食べようね!」と言って、こちらの返事は待たずに部屋に入って行った。
「また適当なことを……」
そうボソリと呟く快人くんを見て、最初は小さな小学生の男の子に見えてたけれど、隼人くんと一緒になってからはお兄ちゃんの表情もしっかりと見えた気がした。