「おねえちゃん、だ――」

「隼人っ、今日の夕飯、隼人の好きなオムライスだから、はやく帰ろう」

「えっオムライス!? やったぁー!」

「それじゃあマナミ先生、また明日!」

快人くんは、展開についていけずぽかんとしていた私の手を引っ張る。 田辺は、呑気に「オムライスかあ、いいなあ。じいちゃんが作るのが、美味かったなあ」と呑気に一人で喋っている。

「せんせえ、また明日〜!」とこれまた大きな声で言う隼人くんの声に、私は慌てて振り返ってマナミ先生に頭を下げた。

「はっ、そうだ! おねえちゃん、誰?」

思い出したように言う隼人くんに、「えっと」と言葉に詰まる。 この子に、従姉妹だという嘘は通用しないだろうし、それに、あれ……?

すると、快人くんが「おねえちゃんは」と口を開いた。

「兄ちゃんを、助けてくれた人」

快人くんはそう言うと、何か気付いたように私と繋いだ手を見るとパッと離して、私と目が合うとどこか気まずそうに視線を前に戻した。

「おい、何照れてんだ」

田辺の言葉に私は「え?」と聞き返すと、隼人くんが「お兄ちゃん、顔赤いね」と言葉を続ける。

「て、照れてない! 赤くもないっ」

「ええ、そうかなあ? でも、そうか! おねえちゃんはおにいちゃんのヒーローだね」

ねっ!とこちらに笑顔を向ける隼人くんに、私は「う、うん?」と頷く。 

100円を渡しただけなのに、「助けてくれた」なんて言ってくれるなんて思ってもみなかった。 それでも、そう快人くんが言ってくれたから、あの時勇気を出して良かったと思う。