「いま、隼人くん呼んできますね」と言って、マナミ先生は保育園の建物の中へと小走りで向かって行く。
「すげぇ、よく交わしたなあ」
「まあね」
快人くんはほんの少しだけ笑って見せる。 その顔がどこか得意げで、ちょっと可愛らしい。
私は保育園の外で走り回っている子たちを見ながら、自分があの歳くらいの時はまだ母親と一緒に居たことをぼんやりと思い出す。
一緒に、と言っても母親はほぼ家には居なくて、保育園の送り迎えもバスだったから迎えにきてもらったことはない。
家に帰ったら、テーブルの上にコンビニ弁当か1000円札が置いてあるだけだった。
「……あのさ、弟は……」
「おにい〜ちゃあ〜ん!!」
何か快人くんが言いかけたとき、園の方からものすごく大きい声が聞こえてそちらを向くと、一人の男の子が両手を広げてこちらに向かって走って来ていた。
「おかぁえり〜!!」
隼人くんはそのまま快人くんに突進すると、快人くんが「おわっ」と後ろによろけた。 私は咄嗟に彼の背中に手を差し出すと田辺の手と重なった。
“あ、”と思った時、田辺の方が「ごめん」と言ってぱっとそこから手を離す。
「隼人くんー! リュック忘れてるよ〜!!」
マナミ先生も、青いリュックを持ってこちらに走ってくる。
「隼人、リュック忘れてくるの気を付けてって、いつも言ってるじゃん」
「うん、ごめん!」
2人のやり取りを見ながら、隣で田辺が「そっくりだな」と呟くので、私は深く頷く。
快人くんは黒のランドセルを背負ってたから初めから男の子だと分かったけれど、隼人くんも少し髪が伸びていることもあってパステルイエローのTシャツを着ていて一見すると女の子に間違えそうだ。
隼人くんはマナミ先生からリュックを受け取って背負うと、「ん?」と言って私と田辺の方を見る。