「ふたりは、名前なんていうの?」
「田辺史緒」
「新名紗季。 きみは?」
「藤井快人。 紗季さんと史緒は、何歳?」
「おい、なんで俺だけ呼び捨てなんだよ」
「17だよ。 高2」
快人くんは「ふうん」と言う。 今後は私が快人くんに何歳なのかと聞くと「11歳」と答えた。
「11……ってことは、小5か。 それにしちゃ、チビだな」
「クラスで、後ろから3番目だし」
「嘘つけ」
ふたりがもう自然にやり取りをしている様子を見て、私は少しほっとする。
自分しか田辺のことが見えてないことに、ずっとどこか不安を感じていた。 けれど、快人くんのおかげで、これは私の妄想や夢なんかではなくて、ちゃんと現実に起こっている出来事なのだとはっきり理解できた。
「お、懐かしー」
目の前に『あおぞら保育園』という看板が見えて、子供たちの賑やかな声も聞こえてきた。 私と田辺は快人くんの後ろをついて、保育園の敷地に入る。
「あ、快人くん」
園児と遊んでいた若い女性の先生がこちらに気付いて笑顔で言う。 けれど、快人くんの後ろに立つ私たちを見て、不思議そうに首を傾げる。
「マナミ先生、こんにちは」
「こんにちは……あの、快人くん。 後ろの方は……?」
マナミ先生に、あからさまに不審がられていることに今更気付いて「あ、えっと」と言ってみるけれど、次に続く言葉が思い付かない。
「従妹の、紗季ねえちゃん。 一緒に、ご飯の買い物してきたんだ」
快人くんは、ほら、と私が持っているエコバッグを指差す。
「は、はじめまして。 従妹の、新名です」
「ああっ、そうだったんですね。 はじめまして」
マナミ先生は、慌てたようにこちらにお辞儀をする。 警戒が解けたことが分かって安心するとともに、嘘をついているんだと思うと申し訳なかった。