「え、てか俺に話しかけてる?」

田辺もなんだかよく分かっていないようで、次は男の子に顔を向けて話しかけると、その子は「うん」と言う。

「うそ、まじ?」

「ふたりは知り合いなんですか?」

「うん、そう」

「なんだ、そうなんだ」

もう普通に会話し始めているふたりに、私だけ完全に置き去りにされている。 

「じゃあ、いつから……」

男の子は私の方に振り返ってなにか言いかけたけれど、「いや」と首を小さく横に振って言葉を止めた。

「何でもないです。 お金拾ってくれて、ありがとうございました。 それじゃあ」

「え、ちょっと……」

男の子は私の声を聞く間もない速さでペコッとお辞儀をして、スタスタと歩いて行ってしまった。

い、一体なんだったんだ……。 自分以外に田辺のことが見ている人と出会えたことに、驚きを隠せない。

「新名、お金拾ったの?」

「え? あ、うん……」

「へえ、なんか良いことあるといいね」

田辺は特別驚いてもいないようで、「俺らも行こう」と言って、男の子が歩いて行った同じ方向へと足を進める。

ランドセルを背負って重たそうなエコバッグを肩に掛けて歩く男の子の後ろにあっという間に追いつくと、その子はこちらに気付いたようで振り返った。

「な、なんですか」

「俺らも同じ方向なんだよ」

「え? ……そうなんだ」

そう言うと男の子はスーパーで買った物が入っているエコバッグを重たそうに肩に掛け直す。 小柄な子供には、この荷物は大変だろうなと思う。

「ねえ、良かったら荷物持つよ」

私は男の子の隣まで行って言う。

「え?」

「同じ方向みたいだし、その次いでに」

田辺の方を見ると、いいよ、と言っているみたいに頷いてくれている。

「でも、これから迎えがあって……」

「迎え?」