「あ、あの、100円、足りなくて……」

「これっ、落ちてましたよ」

私は咄嗟に自分の財布から100円玉を取り出して、男の子に渡す。 店員と男の子にきょとんとした表情でこちらを見られて、自分の顔がかあっと熱くなるのが分かった。 

「え、落ち……?」

「うん、足元に」

もう後にも引けないので、私は頷く。 男の子は戸惑いながら「ありがとうございます」と言って私から100円玉を受け取って会計を済ませると、エコバッグを持ってそのままレジを立ち去った。

私も会計を済ませて出入り口に向かい自動ドアを通って店内から出たとき、さっきの男の子が立っていて思わず「わっ」と声が出た。 男の子はまっすぐ私の顔を見る。

「さっき、電車に乗ってましたよね」

男の子の言葉に、「え? あ、はい……」と私は小さく頷く。

「じゃあ、あの」

「新名、どうした?」

呼ばれて、声が聞こえた方に顔を向けると男の子の真後ろに田辺が立っていて私はまた「わっ」と声を上げる。

すると男の子も不思議そうな顔をして振り返ると「あ、どうも」と言って田辺にペコッと会釈をする。

「「……え?」」

私と田辺の声が重なる。 

「さっき電車に居た子?」

「さっき電車に乗ってましたよね」

田辺は私に、男の子は田辺に向かって話しかけている。 私は訳が分からず、田辺に曖昧に頷く。