「ん? でも、中学は同じじゃないよね?」
「うん。 俺、2回引っ越してるから中学はまた別だよ。 あれ、言ったことなかったっけ?」
「え、どうだったかな」
思い返してみるけれど、“そう言われれば言われたような気もする”くらいしか思い出せない。
そもそも、私と田辺は自分たちのことを深く話すようなことはあまりなかった。
でも、映画を観るなら必ず夜中という互いの共通点があって、その理由が私は祖母が寝てから、田辺は母親が仕事に行ってから、なんていう話と、クラスメイトが噂する話を照らし合わせると、家庭に事情がありそうだなぁと互いに察していたと思う。
その他にも、私たちの共通点がお小遣いは貰ったことがないとか、買うより安いレンタル漫画は最高とか、スマホアプリで期間限定で無料公開してる漫画があるとか、レンタルDVDを借りられる店が少なくなったとか、そんな話をした覚えがある。
今思えば、田辺と私が学校の屋上で話す内容は、何かの物語についてばかりだった。
私はそのお陰で、その時だけは、変わらず自分が置かれている環境のことを忘れられた。