そんな時、祖母はそっとしてくれる。 呼ぶ名前は、私の名前ではないけれど。

……いま、おばあちゃんは大丈夫だろうか。

階段の上で、母の名前を叫ぶ祖母を思い出す。 あんな風に怒らせてしまったのは初めてだ。 祖母は、私が仮病を使って学校を休んでも、祖母がお気に入りだったお皿を割ってしまった時でも、怒らなかった。

それに、仲田さんにものすごく迷惑をかけてしまった。 

仲田さんが、ずっと祖母と私のことを気に掛けてくれていたのは気付いていた。 

それがお節介だと、自分たちを同情しているのだとばかり思い込み、愛想のない態度ばかり取ってしまっていた。 なんて、失礼なことをしていたんだろうと思う。

仲田さんの、ごめんね、という言葉を思い出して胸がずきりと痛む。

あの時もっと、お礼を伝えるべきだった。 謝らなければならないのは、私の方なのに……。

おばあちゃんにも、ちゃんと、謝らないと…………。

「……な、新名」

ハッとして目を開けると、私の顔を覗き込んでいる田辺と目が合った。

いつの間にか目を瞑って、うたた寝をしてしまっていたらしい。

「ごめん、ここで降りる」

「あっ、うん」

慌てて立ち上がりつつ、リュックを背負って田辺の後を追って電車を降りる。

「新名」

周りを見渡す余裕もないまま田辺に呼ばれて改札へ向かうと、自動改札機を通り過ぎる人を見て、切符を落としたのではと一瞬ヒヤリとしたが、ジーンズのポケットにしっかり仕舞ったのを思い出した。

ポケットから切符を1枚取り出して、自動改札機の投入口に差し込むと、切符は勢いよく吸い込まれていった。

ほっと息をつくと、また田辺に名前を呼ばれる。 顔を上げると、改札の外は全く知らない景色が広がっていた。

「新名、こっち」

「う、うん」

駅構内から出て階段を降りると、駅前からアーケードが向こう側まで設置されている歩道があったり、広い駐車場に何台かタクシーが停まっていたりして、地元よりほんの少し栄えているのが分かる。

「ここ、どこ」

「俺が前に住んでたとこ」

「えっ、前っていつ」

「小学生までかな」