「怪我はなさそうで、なによりだ。コロロ、負担をかけたな。二人もありがとう」
「……我は、別に問題ないですよ、ディルック神様」
こんな時まで、神呼びかよ! 思わずつっこみそうになるが、無駄口を叩くより伝えるべきことがあった。
「さっき、コロロの両親に会ったよ」
「……なんと! 無事でありましたか」
「うん、元気そうだった。だから安心して、まずは今を乗り越えよう」
「はいっ…………!」
俺は白龍から飛び降りる。
コロロが丸い目から涙を落とすので、ポケットに入れていた手拭いを手渡した。
泣くにはまだ少し早い。これが終われば、いくらでもその時間はある。
俺は空を振り仰ぎ、白龍へ命じた。
「三人をテンマまで運んでくれ! 大丈夫だとは思うが、村が襲われてるようなら戦力になってくれるか」
「……あい分かり申した、我が主人よ! 吾輩に乗るが良い、女方!」
白龍は並はずれて強いだけあって、その召喚には相応の魔力を使う。
さっきは戦の始まる前で、力を温存しようと思って召喚していなかったが……。
一度、出してしまったらもう一緒だ。
「ディル様! おひとりで、また戦場へ?」
「シンディー。うん、もう終わらせてくるつもりだよ」
「…………はいっ!! 妻はただ信じて待つこととします!!」
いやぁ、娶った記憶がないのだけど。信用してくれているという点については、素直に喜ぶとしよう。
俺はすぐに気を取り直して、まずは獣人らの動きを封じていく。
彼らは一度命じられれば、それを達成するまで操られるらしい。俺が攻撃しているにもかかわらず、白龍に乗ったシンディーたちを狙っていた。
「……まぁ、空飛ぶ相手に攻撃できるわけがないよな」
俺は空高く上っていく白龍の雄大な背を見て、ふっと笑う。ならばここは、早々に元凶である幹部・ドルトリンの退治へ戻ったほうがよさそうだ。
彼を拘束した道具は、周りの木々で作った簡易のもの。今ごろは、部下に斬らせて逃げ出しているだろう。
極力早く追わねばならない。
白龍から目を切った俺は少し迷った末、両手を重ねて地面へ向ける。
奴は血の気が多く凶暴かつ、聞き分けがいい方でもない。
出すと面倒ごとになりそうで、これまでは召喚しないようにしていたが、今は非常時だ。致し方あるまい。
「……スキル発動、古代召喚!」
詠唱に応えて、赤い閃光が俺の手元から放たれる。
「やっとオレの出番ってわけか! ディルックの兄貴よぉ!」
その中心から現れでたのは、赤い瞳孔に、目が痛むほどの極彩色をした体躯。
龍と対をなす生物、獣王・虎だ。彼は、その身体から『赤虎』とそう呼ばれているらしい。
前にアクドーと対峙してから、この数ヶ月のうちに、手に入れた仲間だ。
「悪い、急いでるんだ。今すぐ西へ向かってくれ、赤虎!」
「わかった、暴れ散らしてやるぜ!! オレは白龍より早えんだ!」
「暴れてる暇はないんだ。一直線、急げ!!」
「相変わらず怖いのう、兄貴は。さすがは王の風格を持ち、オレの上に立つ男よ!」
赤虎は俺を乗せると、猛然と駆け出す。その逞しい腕や脚は大地を抉るように蹴上げて、風をも切り裂く推進力をもたらす。
否、それどころか進路を阻む木々さえ、薙ぎ倒していく。
その速度は、桁違いであった。
後ろを見れば、ついさっきそこにあった景色が、もうかなり遠ざかっている。しっかり掴んでいないと、振り落とされかねない。
「兄貴! 向かってくる敵は、蹴散らしていいのか!?」
「獣人でなければな。それも、殺さない程度だ。それ以上やったら……」
「本当怖いのう、兄貴は。しゃあねぇ、妥協する!」
大まくり上げだ。森をトップスピードで横切り、ものの数分で、中心にある小道を抜ける。
やはり、ドルトリンは逃げ出していた。
けれど、見つけるまでにさほどの時間は要さなかった。
「きゃきゃきゃ!! このドルトリン様のしもべ達に葬られろ、ディルック!! あんな奴など、相手にならないねぇ。このドルトリン様に危害を加えたら、亜人がひどい目に合うって信じ込むほどのバカだぜ、まったく」
おめでたい発言を大声で狂ったように叫んでいるのだから。目印として、これほど見つけやすいものはない。
……しかし、そうか。やっぱり、あれはブラフだったか。
「ついでだ、森全域を占拠するかぁ。今日は我ら『暁月の継承者』にとって、復活の狼煙をあげる日になるかもなぁ。守ってやろうとした亜人達に、仲間も自分も叩きのめされた奴の姿を見に行くか。今ごろ、ひどく腫れた面してんだろうなあ、きゃきゃきゃ!!」
取るに足らぬ悪口だ。俺は冷静に聞き流していたが、血の猛る虎はそうはいかなかったらしい。
「兄貴、あれ、ぶちのめしていいか? オレは兄貴のことを貶める奴がこのうえなく嫌いなんだ。オレの兄貴をあんな奴に笑われて、ただじゃおかねぇ!!」
心が燃えれば、その秘めたる身体能力はさらなる高みに達する。まだ少し先だったのだが、赤虎はほとんど一足飛びに、ドルトリンの後ろについた。
「な、な、なんだとぉ? 虎ぁ? しかも、ディルック!? く、く、くそ! なぜだ。防げ、ドルトリン様のしもべども!! ってくそ、もうほとんどが捕まってるだと!? 使えない獣どもめ!!!!」
まさに赤虎が飛びかからんとする直前、俺はしっかりと命じておく。
「馬は可哀想だから避けろよ。あの上のやつは、いいよ。ぶっ飛ばしてしまえ」
「おぉ、兄貴! 任せてくれぃ!! 蹴らさせてくれるならなんでもいい」
赤虎は勢いを落とさず、ドルトリンへと迫る。彼は馬を必死に叩いて、逃げさせようといたが、
「ひ、ひ、ひぃっぁ!!!?」
本気の獣王に速さで勝てるはずもない。
強く逞しい前足が思いっきり、標的のみを蹴り上げる。
「ぶわぁぁっ!!!」
ドルトリンが馬上から思いっきり弾き飛ばされたところで、
「助かった、ありがとうな赤虎!」
「最後のはかなり気持ちよかった!! 兄貴、暴れられる時があればまたオレを呼んでくれ!!」
俺は召喚を解いた。
宙に身体が放り出されるが、そこはうまくバランスを取り戻して、剣を抜く。
近くの木々を足場にして蹴上げ、推進力を得る。そこで発動するは、赤虎から受け継いだ能力『獣王の猛り』だ。
瞬発的に出力を高めるその力でもって、
「ラベロ流・月影斬り!!!!」
追い討ちの袈裟斬り。強烈な一撃を、ドルトリンに見舞ってやった。
一応、殺さないよう配慮して刃は逆に向けておいたが、効果は十分らしかった。ドルトリンはうつ伏せになっていた。その肩から、血が吐き出され倒れる。
もうまともに動けないだろうが、念のためだ。錬金作成により木の根でしっかりと縛りつけてやった。
さらに、その上へ土嚢を作り上げて即席の獄を作り上げる。
「ひどく腫れた顔してんのはどっちだよ」
その上に腰を落ち着けて、やっと息をつく暇を得た。
ふうっと短い深呼吸をする。

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【古代召喚】
四千年前の古代を生きた者の魂を実体とともに、現代に復活召喚させ、従わせる。
 また、そのスキルと同等の能力を得る。

(利用可能能力)
・龍の神力 レベル4/5
・錬金術 レベル5/5(MAX……進化能力あり)
・調味自在 レベル3/5
・罠作成 レベル1/5
・剣士の『気』 レベル4/5
・獣王の猛り レベル2/5…… 伝説の猛獣・赤虎の瞬発的な剛力を手にする。

 領主ポイント 3500/5000

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赤虎を呼び出したことで、どうなったかとステータスを見てみれば、レベルが一つ上がっていた。
奥の手、大成功だ。