お願い、美羽。三月二十日はどうしても予定を空けて欲しいんだ。

 今日の広瀬くんは何故唐突に、わたしを誘ったりなんかしたのだろう。

 とにかく、どうしても。

 そんなことを言われても、広瀬くんとふたりでなんか遊んだこともないし、なんだか緊張しちゃう。

 グレーの空はその色のまま、雨音は強まるばかり。わたしはまたひとつ、白い息を吐いた。

「頑張って帰ろうかな」

 びしょ濡れになる覚悟を決め、立とうとした。しかしそんなわたしの腕を掴んで止めたのは広瀬くん。

「大丈夫だよ。すぐやむから待ってなって」

 上下に動かした黒目で、彼は座れと言ってくる。彼を見て、空を見て、わたしは言う。

「それってあと何時間後の話?まだまだやむ気配ないよ?」
「すぐやむって」
「やまないよ」

 腰を屈めた中途半端な体勢に、足がぷるぷる震え出す。だからわたしは、広瀬くんの手を振り払おうとした。

「いいから美羽座ってっ。すぐやむからっ」

 けど男の子の力には敵わない。

「え〜……」

 どうしてわたしのタイミングで帰らせてくれないの。そう思うが渋々観念して、わたしは再びしゃがみ込む。

「絶対やまないよお……」
「やむ」

 断言する広瀬くんの自信はどこから沸き出るのか。雨は、更に強くなる。わたしは今しがたまで彼に掴まれていた箇所を、ぎゅっと握った。