高校卒業までのカウントダウンと共に、告白に向けてのカウントダウンも始まったわたし。
 何て言おう、何を贈ろう。果たしてオーケーしてもらえるのだろうか。
 頭の中、木村くんとの思い出を回顧する。


「はい、君にもお土産っ」

 木村くんをいいなと思ったきっかけは、単純だ。それは大して仲の良くもないわたしに、むしろ話したことすらないわたしにお土産のクッキーをくれたから。

「え、えっ!」

 すれ違いざまの廊下でぽんっと渡されたそのクッキー。思わず落としそうになったそれを慌てて両手でキャッチすれば、彼は笑った。

「一個余っちゃったからさ、最初に目ぇあった人にあげようと思って」

 目は、確かにばっちしと合った。それは無意識に、わたしが見ていたからかもしれない。

「あ、ありがとうっ」

 それはまだ木々に微かな桜色が残る、三年生の春のこと。

「え。なんで美羽もそのクッキー持ってんの」

 席に着き、温泉にでも浸かっているようなぽかぽかした気分で、もらったばかりのクッキーのパッケージを眺めていると、わたしの席の横を通りがかった広瀬くんが言ってきた。

「美羽と木村って、お土産渡すほど仲良かったっけ」

 ふと見やれば、広瀬くんの右手にも同じもの。左手はパンツポケットにねじ込まれていた。そういえば彼と木村くんは、同じサッカー部所属だったなあ、と思う。

「木村くんって優しいね」
「え」
「お土産余ったからって、わたしにもくれたの。最初に目ぇ合ったからって言って」

 その時チリンと聞こえたのは、広瀬くんの左手が入れられていたポケットから。その軽やかな音色に、鈴のようだと思った。

「よかったな……」

 どうしてだかナナメになったのは、広瀬くんの機嫌。ポケットの中で拳を作ったのか、グッとその辺りが膨らんでいた。