無事に迎えた、高校卒業の日。一年越しに渡せたお土産の鈴が、君の鞄でチリンと鳴る。

「可愛いね、この鈴。どこのお土産？」

　青空の下で君と待ち合わせ、一緒に歩く通学路。

「広島の神社。本当は、合格祈願のお守りなんだよね」
「え、もうわたし合格しちゃったじゃん。どうしてもっと前にくれなかったの」
「だって、木村のクッキーばっか眺めてる子に渡せるかよっ」

　むくっと膨れた俺を見て、君は嬉しそうに微笑んでいた。

「そんなに前からわたしのこと好きでいてくれたんだね、広瀬くん。ありがとう」

　そう素直に礼を告げられてしまえば、こっちもなんだか嬉しくなる。

「もっと早くに俺から告白すればよかったな」
「本当だよ。何度も自惚れちゃったのに」
「でもクッキー見てた時に俺が告ってたら、さすがに断ってただろう？」
「さあー、どうでしょうか」
「どっち」
「ふふっ。さあ？」

　さらっと回答を放棄し、ずんずん前へ進む君。「ちゃんと答えてよっ」とその背中に追いつくと。

「はい、広瀬くん」

　何かを胸に押し当てられた。

「え、これなに……？」
「開けてみて」

　カサッと開封する、真四角の包み紙。その中から顔を見せたのは、サッカーボールが描かれたハンカチ。

「え、なんで」

　もしかして、これもどこかのお土産か。そう考えていた俺の横、君が照れくさそうにはにかんだ。

「二日遅れちゃったけど、お誕生日おめでとう広瀬くん。高校卒業しても、ずっとずっとよろしくね」

　その笑顔に、きゅんと胸がときめいた。

　君と卒業できなかった、一度目の卒業式。
　君から卒業できずにくすぶっていた、この恋心。

「こちらこそ。これからもよろしくね、美羽」

　神様が他の誰でもない俺を選んだ理由は結局のところよくわからないけれど、それでも神が神だとして崇められるのは、この上ない「幸せ」をこの世にひとつでも多く残すからだろう。

　幸せを噛み締めて、俺は今日、君と一緒に高校を卒業する。