ただの友だちだよ。そこに恋愛感情は一切ない。

 どうして俺は、君を手放してしまいそうなこんな時でさえ、臆病者なのだろう。
 好きだから俺といろよって、木村のとこなんか行って事故に巻き込まれんなよって、言ってしまえばよかったのに。

「美羽!」

 君に遅れること一本。俺は電車に飛び乗った。もう間に合わないかもしれないと不安を抱いていたが、改札を抜けた途端、超特急のワゴン車と君の後ろ姿が目に入った。

「美羽死ぬな!」

 差し伸べた手、必ず君へ届けっ。

「広瀬くんっ……」

 まわりの悲鳴もクラクションも、君と触れ合えたその瞬間だけは無になった。ふたり光に包まれて、神様にでも守られた気になった。

「だ、大丈夫ですか!?」

 どさ、どさっと沿道に投げ出されるようにして尻もちをついた俺等ふたりに、周囲の人々が駆け寄った。彼等に大丈夫だと告げるよりも先に、気になるのは君のこと。

「美羽、平気っ!?」
「うん!広瀬くんは!?」

 俺は君の無事を、君は俺の無事をそれぞれ確かめ、はあーっと長い息を吐く。ワゴン車は駅構内に半分ほど身を入れたところで静止した。