「え……」

 改札を出て、わたしは固まった。

「雨……」

 ぽつぽつぽつ。

 そう激しくはないけれど、空からたくさんの雫が落ちてきていたから。

「う、うそでしょっ」

 思い出したのは、一時間前に別れた広瀬くんの姿。彼は傘を持っていた。彼は未来を知っていた。ということはつまり、とどのつまり。

「わたし、本当に死ぬの……?」

 その時どこからか響いてきた、パアッというクラクションの音が、耳を(つんざ)くと共に戦慄(せんりつ)を運んでくる。ガクガクと、震え出す両方の足。

 もう木村くんの家になど向かっている場合ではない、どこかの喫茶店にでも入って、安全を確保しなければ。

 そう思って一歩を踏み出した矢先だった。

「逃げろおおお!」

 聞こえた男性の大声に、その足が直ちに(すく)む。
 声の元へと目をやれば、そこには五十代くらいのサラリーマンが、鬼のような形相で車道とわたしを交互に見ながら叫んでいた。

「逃げろ!轢かれるぞ!」