木村くんの家へ着く前に、わたしは事故に遭う。
 わたし不在の卒業式、黙祷や通夜。そして広瀬くんはその日の夜に、一月の雪の日へ戻ってきたという。
 信じ難い色々を聞かされて、わたしは言葉を失っていた。

 風が吹く。せっかくセットしたヘアが、崩れてしまう。糸のようなか細い声が、気管の隙間を縫って出る。

「ひ、広瀬くんは、わたしを助けるために過去に戻ってきたっていうこと……?」

 広瀬くんの話全てを信じたわけではないが、全部が嘘だと言い切れる自信もなかった。今まで一度だって遊んだことのない彼からの唐突な誘いが、よりによって今日なのはどうしてなのだろうと考えれば、背筋に冷たいものが走った。

「それは、わからない」

 瞳を赤く染めながら、彼は言う。

「だけど一月から今日までの俺は、美羽を救うことしか考えてない。ただそれだけの思いで、毎日を過ごしてきた」

 その言葉に、またもや心臓が大袈裟なリアクション。

「俺は美羽を、諦められないよ」

 ドキドキドキドキ喚き出し、苦しくなって。わたしが本当に好きなのは、広瀬くんなんじゃないかって、思わせてくるんだ。

「広瀬くん」

 命の話をしている時に、無神経だとは思うけれど、確かめずにはいられなくなってしまった。