三月二十日、運命の日。諦めきれない俺は始発電車に飛び乗った。事前に調べた君の家の玄関前、しゃがんでひたすら君を待つ。もうこの際風邪でも引いて、この扉から出てこないでよと願うけれど、数時間後に虚しくその扉は(ひら)く。

「え……」

 俺の存在に目を丸くさせた君は、いつもと違ったヘアスタイル。

「おはよ、美羽。あはは、なにそれ。めっちゃ可愛いじゃん」

 こんなにも切羽詰まった状況なのに、素直にそう思ってしまう。

「なに、してるの広瀬くん……」
「美羽を待ってた」
「どうして、わたしの家……」

 狼狽える君の前。怖がられないようにと、なるべく穏やかな表情を作る。

「やっぱり美羽は今回も、木村の家に行くんだね?」

 だけどそれは、僅か数秒としてもたなくて。

「行かないで」

 生きて欲しい、が強く出て、ひしゃげた顔をそのまま落とす。

「お願いです。行かないでください」

 行かないで、死なないで。

「美羽、行かないで……」

 お願いだから。

「広瀬くんお願い、頭をあげて」

 ひざを曲げた君は、俺の高さまでしゃがみ込む。

「土下座なんて、しないでよっ」

 ゆっくりと顔をあげて、そんな君にもう一度聞くけれど。

「じゃあ木村のとこ、行かないでくれる?」
「行く。わたしは行くよ、木村くんの家に」

 その答えに、瞳からは大粒の涙が溢れ落ちて行った。

「くっそ……!」

 未来を知っていても、何もできないのならば、どうして神様は俺を過去に寄越したのだろう。

「俺、美羽に死んで欲しくないっ……」

 神様が俺を選んでくれたのは、何か理由があるんじゃないの?