「美羽の家、どこ?」
「聞いてどうするの」
「三月二十日に迎え行く」
「今の話、ちゃんと聞いてた?」
「うん。聞いたうえで聞いてんの。美羽の家ってどこ」
「え、もしかして広瀬くんって、広瀬くんってわたしのこと、好、好き──」

 好きなの?

 そう聞かれそうになって、俺は焦った。ここで万が一俺の気持ちを知らせて、君に一線を引かれてしまえば、君を助けようと近付くことすら難しくなってしまうと思ったから。
 真顔を貼り付け、顔の前で手を振った。

「あ、安心して。美羽を好きとかで誘ってるんじゃないから」

 本当は大好き、だけどね。この気持ちからは、いずれ卒業しなくてはならない。

「あ、あははは……です、よね……」

 ぽりぽりとこめかみを指でなぞり、俯く君。あ、と俺は閃く。

「それかさ、今からでも木村じゃなくて、潤とかに恋すれば?」

 木村に向けられている君の想いを、他に逸らせやしないだろうか。

「は、はい……?」
「あー、賢治でもいいかも。美羽のこと、可愛いって言ってたし。ナベもいい奴だからお勧めだなー」
「ちょっと、広瀬くん……?」
「斎藤もかっこいいじゃん」

 次から次へと異性の名前を口にすれば、君は俺を、変なものでも見るような目で見てきた。

「もしかして、木村くんには彼女でもいるの?」
「いいや、木村はフリーだよ」
「じゃ、じゃあわたしは木村くんを好きでいいじゃん」
「んー、やだ」
「な、なんで」
「木村だけは、絶対やだから」