高校卒業までのカウントダウンと共に、君の命のカウントダウンも始まった。
 どうしたら君を救えるのかと足掻く最中(さなか)、豪雨の日がやって来た。この日はずぶ濡れで帰ったことをよく覚えているのに、またもや傘を忘れた俺は、やむまで校舎で待つことを決めた。三十分もしないうちに雨はおさまる。それも知っていたから。

「ひゃっ!」

 その日の君はどうしていたのだろうと探していれば、昇降口から聞こえたのは君の声。上履きのまましゃがみ込み、グレーの空を見上げていた。

「走るしかないよねぇ、濡れるのやだけど……」

 だから俺は、君に言う。

「待ってれば?」
「広瀬くん」
「雨やむの、待ってれば?」
「広瀬くんも帰り損ねたの?」
「ううん。雨やむの待とうって思って。傘忘れたし」
「今日の大雨は天気予報士ですら予想外だから。傘持ってこられた人の方がすごいよ」
「あー。まあ、そうだな」

 君の側で腰を下ろせば、隣からは白い息。

「頑張って帰ろうかな」

 濡れる覚悟を決めたのか、ふいに君が立とうとするから、俺は慌ててその華奢な腕を掴んで止めた。

「大丈夫だよ。すぐやむから待ってなって」
「それってあと何時間後の話?まだまだやむ気配ないよ?」
「すぐやむって」
「やまないよ」

 俺、未来からきたんだ。だから知ってるんだ。
 そう言えば、君はひいてしまうかな。