「え、木村くんの誕生日って三月二十日なの?」

 この会話を、実はこっそり聞いていた。気味が悪いだなんて、お願いだから言わないで。

「そうだよ、卒業式の二日前」
「へえ、知らなかったあ」
「美羽はいつだっけ」
「わたしは四月三日」
「わ、じゃあ俺たち、ぎりぎり一緒の学年になれたんだな。どっちがあと少し早く生まれても遅くても、友だちになれてなかったかも」

 休み時間の廊下。俺は君の煌めく双眸が憎かった。木村との出逢いが奇跡だとか、そんな風に思っている気がして。

「じゃあ俺、もう行くわ。次体育だから」
「うん、頑張ってね」

 ひらひらと手を振って、木村の背を見送った君。スマートフォンを操作しながら「よし、この日にしようっ」なんて言うから俺は焦ったんだ。何か良からぬことを思いついたんじゃないかって。

「美羽」

 廊下に置いていた身をすかさず教室へ戻した俺は、君の名を呼んだ。

「広瀬くん」

 君は何故か、ほっとした表情。

「なあに?」
「あのさ、三月二十日って空いてる?」
「え」
「もしよかったら、俺と遊ばない?」

 プランも何もありはしなかった。ただその日に君が交通事故に遭うのだと知ってしまった俺は、何としてでもその日付を確保したかった。