「そんなとこで見てないで、もっとこっち来なよ」

 三年生の夏。校庭の木の陰から、サッカー部の練習をこそこそと見学している君には、俺しか気付けない。好意を寄せている相手の存在は、いつだって恋のレーダーが反応する。

「どうせ木村のこと見に来たんでしょ?そんな端っこじゃ、見られるものも見られないじゃんっ」

 違うよ、広瀬くんを見に来たんだよ。
 そんな返答を妄想しながら君の腕を掴み、幹の後ろから引っ張り出した。遠慮がちに君は言う。

「い、いいっ。そんな堂々と見てたら、好きって思われちゃうもんっ」

 俺の「好き」には気付かないくせに、まわりの視線には敏感なよう。君の腕からそっと手を離す。

「俺は好きな相手には自分の気持ち、勘付いて欲しいけどな」
「へ?」
「だってそしたら相手だって、俺のこと意識してくれるでしょ」

 ほら、ほら。意識してよ。

 にかっと白い歯を見せて笑うけど、心は笑えない。だって君が好きなのは、木村だから。

 手応えないままに校庭の中央へ戻る時、俺は最後にワンプッシュ。

「ちなみに俺が今美羽に気付いたのは、『俺が美羽を見てたから』だからっ」

 これでも俺の気持ちをキャッチしないなら、君は相当だ。

 練習後、一目散に帰宅しようとした君の元へ、俺は再び駆けて行く。

「今から木村んち寄ってくけど、美羽も来る?」

 木村と一緒ならまだ君と過ごせるのかな、なんてずるい考えだった。けれど君は、ぶんぶんと横に首を振った。

「い、行かないよっ!わたしが行ったら変じゃんっ!」
「そうかあ?だって木村んちすぐそこだぜ?校門出て真っ直ぐ進んだとこの、赤い屋根」
「距離の問題じゃなくてっ、わたし、マネージャーでもなんでもないしっ!」
「そっか、じゃあまた」

 この時の俺がすでにもう、君から卒業していれば、俺が木村の家の場所など口にしなければ。そうすればまだ、君はこの世にいられたのだろうか。