「美羽って木村のどこが好きなの?」

 俺は君にそう聞いたことがある。五月の体育祭、晴れ渡った青空の下でゴールテープを切った木村に、君が目を奪われていた時だ。

「え!す、好き!?いや、べつにっ。え、え、えっ」

 ぽっぽと茹で蛸のように染まりいく君の頬。このありさまで、どうして否定ができるのだろう。
 愛くるしい君の視線を、少しは俺にちょうだいよ。そんな願いを込めて、デコピンを放った。

「あいつばっかに夢中になってると、他者の愛に気付けないぞっ」
「ええっ?」
「ちょっとはまわりも気にしてみてよ」

 額の真ん中に両手を運んだ君は、壊れたロボットのように「え」ばかりを繰り返す。

 ああ、全然伝わってないじゃないか。美羽の鈍感め。

 俺は小さく溜め息を吐き、次に出番を控える選択競技のスタンバイ場所に向かって走って行く。

「ちょ、広瀬くんっ!」

 それなのに君がいきなり呼び止めるから、まだ俺の後ろ姿を見てくれていたのかと思い、嬉しくなった。振り返った俺は微笑んで、天高くガッツポーズ。

「美羽ー。俺のことも応援してねーっ」

 きらきら輝いた午前の陽が、君を丸ごと照らしていた。