「え。なんで美羽もそのクッキー持ってんの」

 温泉にでも浸かっているようなぽかぽかな顔で、クッキーのパッケージを眺めていた君。俺は敢えて、そんな君の席の横を通った。

「美羽と木村って、お土産渡すほど仲良かったっけ」

 少しの嫉妬と共にそう聞けば、君はその顔のままふにゃりと笑った。

「木村くんって優しいね」
「え」
「お土産余ったからって、わたしにもくれたの。最初に目ぇ合ったからって言って」

 その時チリンと聞こえたのは、俺の左手が入れられていたポケットから。高校二年生の秋頃、君を可愛い可愛いと賢治が絶賛していたから、単純な俺もすっかり君を好きになり、春休みに訪れた旅行先で、お土産なんかを買っていたんだ。

「よかったな……」

 予期せぬライバルに先を越され、渡すタイミングを見失ったそれは、俺の拳の中で握り潰された。
 君へ抱く、淡い想い。けれど君に好きな人ができてしまったならば、俺はこの気持ちから卒業しなければならないのだろうか。