広瀬(ひろせ)くん、どうしたの?」

 高校生活も残り僅かになった、一月のとある日。教室の隅の席で、広瀬くんは頬杖をついていた。窓越しにちらつく雪を眺めながら、彼はなんだか侘しそう。

「なんで泣いてるの、広瀬くん」

 きらり、目元で光るもの。欠伸のせいではなさそうなそれを見て、心配になる。今は放課後。空っぽだった彼の隣の席に勝手に腰をかけ、もう一度聞く。

「どうしたの広瀬くん、帰らないの?なにか悲しいことでもあったの」

 身体は広瀬くんの方へと前のめり。ゆっくりと窓から視線を外した彼がこちらを向けば、潤いに満ちた瞳と目が合った。

「美羽……」

 消え入りそうな、小さな声。ここが人気(ひとけ)の少ない放課後の教室でなければ、聞き逃してしまいそうなほどの。

「美羽、ごめん……」
「え?」
「ごめんな……」

 どうして謝られているのかわからずに、返す言葉に束の間手間取る。ふたりの間に流れる静寂。その時ぽたんと広瀬くんの目から落ちた涙の雫が、今日の雪のように綺麗だった。