それでも、広瀬くんに放っておかれることはわたし自身が望んでいたことだと無理矢理納得させて、三月二十日の当日を迎えた。

「よしっ」

 運命のこの日、髪の毛をいつもよりバチッとキメて、わたしは鏡の中の自分とずいぶん長い時間睨めっこをした。
 時刻はまだ東に太陽身を置く朝十時半。高校最寄り駅と同じ街に住む木村くんの自宅までは一時間ほど。今から出発すれば、正午までにはわたしは彼に好きだと伝えているだろう。
 大学受験の合否よりも気になるその結果。昨夜は上手に寝付けなかった。

「お母さん、ちょっと出かけてくるねー!」

 そう玄関で言い放ち、扉を開けた時だった。

「え……」

 広瀬くんと目が合った。

 彼はわたしの家の玄関前でしゃがんでいた。スマートフォンをいじるわけでもなく、本を読むでもない彼と、扉を開けた瞬間に視線が交わった。
 広瀬くんの手にはビニール傘。彼の本日の予報は雨らしい。空はこんなにも青いのに。

「おはよ、美羽。あはは、なにそれ。めっちゃ可愛いじゃん」

 広瀬くんはわたしの精一杯のお洒落を見てそう言った。ドキッと鳴る胸の奥。

「なに、してるの広瀬くん……」
「美羽を待ってた」
「どうして、わたしの家……」
「悪いけど、この前美羽のあとつけさせてもらった。今日はどうしても、美羽に会いたかったから」

 狼狽えるわたしの前。広瀬くんは穏やかすぎる表情でこう言った。

「やっぱり美羽は今回も、木村の家に行くんだね?」