「木村はフリーだよ」
「じゃ、じゃあわたしは木村くんを好きでいいじゃん」
「んー、やだ」
「な、なんで」
「木村だけは、絶対やだから」

 わたしを好きでもない広瀬くん。なのにわたしの恋にとやかく口出ししてくる広瀬くんにもやもやする。
 これがおふざけならばまだいいのだろうが、真剣な眼差しがそうではないと言っているから、困ってしまう。

「も、もう帰るっ」

 いつまでもここにいても、どうせ雨はやまないし、おかしな広瀬くんに歯痒くなるだけ。暫く彼にばかり向けていた視線を外へ移し、びしょ濡れになる覚悟をもう一度決めようとした、その時だった。

「え……」

 突如明るい陽射しが差し込んだ。
 広がるのは、青空。いつの間にやら雲ははけ、優しい光が大地いっぱいを照らしている。広瀬くんの言った通り、雨はやんだのだ。
 わたしと同じ光景を見た広瀬くんは、「よいしょ」と立ち上がり、ひとつ大きな伸びをした。

「よし、帰るかあっ」

 あたり前のように、上履きから外履きへ淡々と履き替える広瀬くん。

「本当に、やんじゃった……」

 信じられないと言わんばかりに、空から落ちてくる雫がどこかにないかと探していると、彼の得意げな声が耳へ届く。

「だから言ったろ?すぐやむって」
「う、うん」
「焦って帰らなくてよかったな」
「そう、だね」

 さっきまでの雨が、嘘のよう。

「じゃあね美羽。また明日」

 彼は青い空にも似た笑顔で、その場をあとにした。