ふうんと鼻を鳴らした広瀬くん。がしがしと頭を掻く。

「美羽の家、どこ?」

 まだ諦めてはくれない様子。

「聞いてどうするの」
「三月二十日に迎え行く」
「今の話、ちゃんと聞いてた?」
「うん。聞いたうえで聞いてんの。美羽の家ってどこ」

 広瀬くんはすごい人ではなく、ただの変わり者なだけかもしれない。あ、それか。

「え、もしかして広瀬くんって」

 あいつばっかに夢中になってると、他者の愛に気付けないぞっ。

 体育祭の時に言われた、そんな言葉。その言葉の裏に隠された意味は、もしかして、ひょっとして。

「広瀬くんってわたしのこと、好、好き──」

 好きなの?

 赤らめた顔のまま自惚れていれば、真顔の広瀬くんが顔の前で手を振った。

「あ、安心して。美羽を好きとかで誘ってるんじゃないから」

 その瞬間、しゃがんでいるのにもかかわらず、ズコッとこけてしまいそうになる。

「あ、あははは……です、よね……」

 なんて恥ずかしいのだろう。これは間違いなく、高校生活において一番の失態だ。