「ありがとな。お姉ちゃん」
「何がだ」
とりあえず3人揃ってリビングへと移動した後。瑤太は居住まいを正して姉に礼を言った。同じく座り込む彼女の返しに、瑤太は苦笑する。先程までの怒れる姿が嘘のように気の抜けた顔で、彼女は弟を見ていた。あの祖母とのやり取りをするのは大体姉だが、やはり相当なエネルギーを消耗するらしい。
「俺の味方、してくれた事だよ」
「味方も何も、当たり前でしょ。半年以上頑張ってきたは事実だし、自分に見切りを付けたってのも相当な事だよ?労わりこそすれ、咎め立てされる事なんて無いね」
「お祖母ちゃん、昔から世間体が第一の見栄っ張りだから…」
瑠子は溜め息交じりに口を開いた。彼女に「お疲れ様」と言いつつ、麦茶を注いだグラスを渡す。礼を言ってグラスを受け取り口を付ける長女に、瑠子は申し訳なさそうな顔を向ける。
「ごめんね…。いつも貴方にばかりお祖母ちゃんの対応を任せちゃって…」
「構わんよ」
大音声のやり取りで流石に喉が渇いていたらしく、すぐに麦茶を干した彼女は何の事も無さそうに返した。
「祖母さんは元々…言っちゃアレだけど、お母さんの事は『一般人だから』って見下しているから、お母さんが言う事には聞く耳を持たない」
彼女は「かく言う自分も一般人のくせにね」と付け足した。
「瑤太の事は『長男だから』って優遇するけど、やっぱり話は聞かない。いつまでもいつまでも、自分がコントロールできる子供だと思ってる」
「俺そろそろ二十歳なのに『瑤太ちゃん』だからな…」
瑤太はうすら寒そうな口調で呻いた。
「だったら、この家で唯一の能力者であり、経済面でも実働面でも事実上この家を支えている私が防波堤になるしかないでしょ。だから別に苦痛とか負担とか迷惑とか思った事は無いよ。必要だったら、これからだって私が矢面に立つさ」
「…ありがとう」
母の礼に彼女は、相変わらず気が抜けた表情ながらも「ん」と頷く。
瑤太は「あー」と頭を掻いた。
「しっかし、大学からの電話でバレるなんてなあ」
「瑤太がいた…と言うか祖母さんに入れられていたゼミの先生…菅凪先生、だったね。私の連絡先がわからないから、家に直に電話してきたって話だったけど」
そう。母屋にかかってきた電話を取ったのが瓊子だった。彼女に用があるとの事だったので、伯母である璃子が離れに彼女を呼びに行った。その合間の世間話。何気なく、本当に何気なく、件の教授が瑤太がゼミを抜けた事を口にした。教授としては、ゼミを抜けた瑤太が元気でやっているかを訊きたかっただけなのだが、その事実を知らされていなかった瓊子には青天の霹靂だった。
瓊子からすれば、「絶対に霊術士として大成しますから!」とひたすら司家のネームバリューを掲げ頭を下げて頼み込んで入れたゼミである。勝手にゼミを抜けた上に黙っていたとは何事だ、司家の長男として恥ずかしくないのかと、離れに乗り込んできた瓊子が瑤太を責め立て、そこへ電話を終えた彼女が戻ってきて猛然と反撃し、冒頭の流れに至る。
「まああれだ。先生としては単なる世間話のつもりだった。今回は単に祖母さんが、いつもの事ではあるが勝手に暴走しただけ。事故みたいなものと言えばいいのかね」
「事故…。確かに、事故っちゃあ事故か」
姉弟は揃ってふーうと溜め息をつく。その姉、彼女に膝を向け、瑠子は問いかけた。
「ねえ。話が変わるんだけど、先生の用事って、結局何だったの?」
「あ。それは俺も気になってた。聞いていい?」
彼女は「いいよ」と頷いた。
「私の『アイギス・シリーズ』の説明会に、先生とゼミ生も参加していいかって談判が来たんだよ」
「何がだ」
とりあえず3人揃ってリビングへと移動した後。瑤太は居住まいを正して姉に礼を言った。同じく座り込む彼女の返しに、瑤太は苦笑する。先程までの怒れる姿が嘘のように気の抜けた顔で、彼女は弟を見ていた。あの祖母とのやり取りをするのは大体姉だが、やはり相当なエネルギーを消耗するらしい。
「俺の味方、してくれた事だよ」
「味方も何も、当たり前でしょ。半年以上頑張ってきたは事実だし、自分に見切りを付けたってのも相当な事だよ?労わりこそすれ、咎め立てされる事なんて無いね」
「お祖母ちゃん、昔から世間体が第一の見栄っ張りだから…」
瑠子は溜め息交じりに口を開いた。彼女に「お疲れ様」と言いつつ、麦茶を注いだグラスを渡す。礼を言ってグラスを受け取り口を付ける長女に、瑠子は申し訳なさそうな顔を向ける。
「ごめんね…。いつも貴方にばかりお祖母ちゃんの対応を任せちゃって…」
「構わんよ」
大音声のやり取りで流石に喉が渇いていたらしく、すぐに麦茶を干した彼女は何の事も無さそうに返した。
「祖母さんは元々…言っちゃアレだけど、お母さんの事は『一般人だから』って見下しているから、お母さんが言う事には聞く耳を持たない」
彼女は「かく言う自分も一般人のくせにね」と付け足した。
「瑤太の事は『長男だから』って優遇するけど、やっぱり話は聞かない。いつまでもいつまでも、自分がコントロールできる子供だと思ってる」
「俺そろそろ二十歳なのに『瑤太ちゃん』だからな…」
瑤太はうすら寒そうな口調で呻いた。
「だったら、この家で唯一の能力者であり、経済面でも実働面でも事実上この家を支えている私が防波堤になるしかないでしょ。だから別に苦痛とか負担とか迷惑とか思った事は無いよ。必要だったら、これからだって私が矢面に立つさ」
「…ありがとう」
母の礼に彼女は、相変わらず気が抜けた表情ながらも「ん」と頷く。
瑤太は「あー」と頭を掻いた。
「しっかし、大学からの電話でバレるなんてなあ」
「瑤太がいた…と言うか祖母さんに入れられていたゼミの先生…菅凪先生、だったね。私の連絡先がわからないから、家に直に電話してきたって話だったけど」
そう。母屋にかかってきた電話を取ったのが瓊子だった。彼女に用があるとの事だったので、伯母である璃子が離れに彼女を呼びに行った。その合間の世間話。何気なく、本当に何気なく、件の教授が瑤太がゼミを抜けた事を口にした。教授としては、ゼミを抜けた瑤太が元気でやっているかを訊きたかっただけなのだが、その事実を知らされていなかった瓊子には青天の霹靂だった。
瓊子からすれば、「絶対に霊術士として大成しますから!」とひたすら司家のネームバリューを掲げ頭を下げて頼み込んで入れたゼミである。勝手にゼミを抜けた上に黙っていたとは何事だ、司家の長男として恥ずかしくないのかと、離れに乗り込んできた瓊子が瑤太を責め立て、そこへ電話を終えた彼女が戻ってきて猛然と反撃し、冒頭の流れに至る。
「まああれだ。先生としては単なる世間話のつもりだった。今回は単に祖母さんが、いつもの事ではあるが勝手に暴走しただけ。事故みたいなものと言えばいいのかね」
「事故…。確かに、事故っちゃあ事故か」
姉弟は揃ってふーうと溜め息をつく。その姉、彼女に膝を向け、瑠子は問いかけた。
「ねえ。話が変わるんだけど、先生の用事って、結局何だったの?」
「あ。それは俺も気になってた。聞いていい?」
彼女は「いいよ」と頷いた。
「私の『アイギス・シリーズ』の説明会に、先生とゼミ生も参加していいかって談判が来たんだよ」