ずっと母に言いたいことがあった。平々凡々とした私の見目に、沙羅なんて優美な響きの名前は間違ってるよって。名前負けしてるからって。

 でも、もう言えない。母は突然、私たちの前からいなくなってしまったから。歩道を歩いていた母に乗用車が突っ込んできたのだ。居眠り運転だった。

 母が事故に会う日の朝、機嫌が悪かった私はことごとく母の言うことを聞かなかった。今となっては理由は分からない。でも、きっと大した理由ではないはずだ。