「頭を下げるべき時に、位は関係ござらん。悪い事をしたと思った相手には、頭はきちんと下げるべきなのだ。だが、嫁御殿には頭を下げるだけで、全て許されるとは思っておらぬ。愚弟が許されざる行いばかりをし、恥辱の限りを尽くしたのであろう?まことにすまなかった、愚弟に代わって詫びる。どうか許して欲しい」
 ご自分の事ではないのに。藤次郎様の心中はひどく痛み、凄まじい後悔が広がっていらした。
 そんな苦しげな藤次郎様の心に触れてしまうと、「良いのです」と言葉が口を突いて出ていた。
「確かに辛く、苦しい日々でしたが。小十郎様のおかげで、私は雷華様と出会えました。生きて雷華様とこれからを刻んでいけるのですよ。そう思うと、味わった苦しみはすぐに消える物になりましょうから」
 艶然として答え「そうですよね、雷華様」と、顔を見上げて雷華様を見つめる。雷華様はすぐに見つめ返してくれて、優しく微笑み「そうだな」と答えてくれた。
「そう言う事だ、政宗。此度はりんの意志も尊重し、不問にしてやる。だが、良いな。次はない」
「かたじけない」
 藤次郎様が深々とお礼を告げると、後ろの家臣達も「寛大なお心に感謝致しまする!」などの言葉を口々に私達に向けて言った。
 そうして藤次郎様の顔が上がると、雷華様は上がった顔を見つめながら「だがな」と重々しく口を開いた。
「お前の事だ、まさかとは思うが。これで収めて、野放しという訳ではなかろうな」
「無論だ。愚弟は目の届く所に置き、それなりの仕置きは与えよう。兄として、伊達家当主として、あやつの根性は叩き直す」
 重々しく告げてから、小十郎様に一瞥をくれると。小十郎様の顔は更に死人の様に青くなっていった。纏っていた憎悪や怒りの炎も、みるみると鎮火していくのが目に見えて分かる。
「他の者は、りんを虐めていた者達はどうすると言うのだ」
 雷華様が重々しく告げると、藤次郎様がにこやかな笑みを私に向ける。
「虐めていた妻達は出家。家臣は加担具合で、蟄居や闕所をさせよう。それから歴史に名を残さぬ様に、家系図も何もかも全てにおいて、名を消すつもりだ。子孫達が、あの者らの名を知る事はなかろう」
 あの若さで出家させられるばかりか、全てから名を消されるなんて。
 私はにこやかに吐き出された罰に、そこまでしなくとも良いのではと思ったが。