私がそれに慌てて前に出ようとするが。「案ずるな、りん」とにこやかに告げられる。
「しかし」
「我に任せておけ」
 力強い口調で告げられたので、私は何も言えなくなってしまい、暗然としながら口を閉じた。
 すると「何が我に任せておけだ!」と猛々しい声が響き、怒髪天を衝いた小十郎様が現れる。
 怒りと憎しみに燃えた、邪な化け物がやって来た。
「よくも我が屋敷の地を踏めたものだ!この嘘つきめ!拙者に忠誠を誓い、伊達家の当主にすると言っておったのに!お前は麒麟なんかではなかろう!ただの物の怪だ!力なんぞ、貴様は持っておらぬのだ!憐も何故まだ生きておる!醜き化け物共め、貴様等はもうこの小十郎の物ではない!もういらぬ!」
 私達二人に声を荒げると、小十郎様は周りの家臣達に「殺せ!」と容赦なく檄を飛ばした。
 小十郎様が叫んだ刹那、家臣達は皆恐れおののいているものの、自分の中の勇気を振り絞り、襲いかからんとし始める。
「二度もこの我に刃を向けるか、愚かな人間共が」
 誰もが竦み上がってしまう程の声音で告げると、雷華様はカッと口から火の玉を吐き出し、屋敷の入り口である大仰な門に火をつけた。
 瞬く間に、ごうっと燃え盛り、パチパチと楽しげな音を立てさせながら門が崩れていく。
 その様に家臣達の何人かは悲鳴をあげ、武器を放り捨てて逃げ出したが。
「逃げるな!逃げた物は一族郎党、皆殺しに処すぞ!戦わんか、愚か者共が!貴様等は、拙者の命を聞くだけの物だろうが!拙者の命を全うしろ!」
 冷酷な怒声が空気を震撼させながら響き渡る。それは、まさに鶴の一声。逃げていた家臣達の足がピタリと止まり、捨てたはずの武器を怖々としながらも持ち始めてしまった。
 そしてキリキリと弓を引いていた者達が、いっせいに矢を放つ。
 しかし、その矢が襲う先は・・・私だった。雷華様では無理と踏んで、私に向かって、容赦なく飛ばしたのだ。
 やられる!
 ギュッと目を瞑った刹那、パキパキッと鏃が鋼鉄に突き刺さった様な甲高い音が発せられた。そしてカランカランと、矢が地に落ちていく音も。
 恐る恐る目を開けてみると、私の視界には雷華様の横顔が。そして雷華様の紅色の瞳が、メラメラと怒りの炎に燃えていた。
「よくも我が妻に、手を出してくれたな」