ポロポロと涙が目の縁から溢れ、雷華様の鱗にキラリと輝く水晶玉が乗った。けれど雷華様はそれに構わず「りん」と、愛おしそうに私の名を呼ぶ。
「はい」
「これから先、我と共に時を過ごしてくれるか。どんな時も側におってくれるか」
「雷華様がそれを許してくれるのならば、私は貴方様のお側にずっとおります。雷華様は、こんな私でよろしいのですか」
 おずおずと尋ねると、すぐに噛みつく様に「無論だ」と言われる。
「りんでなければ、我の側に居る事を許す人間なぞおらぬ。りんでなければ、我は我慢ならぬ。りんが良いのだ。りんも、我でまことに良いのか。姿形が別物の化け物で、人間の形を数時間しか保てぬ我で、良いのか」
「私も雷華様でないと嫌でございます。容姿なぞ些末な問題、そう貴方様も申していたではありませぬか。同じ事にございますよ、雷華様。私は貴方様が人間の姿をしていようが、四足獣の姿をしていようが、関係ありませぬ。雷華様は雷華様です。そして雷華様が醜い私を受け入れて下さったのと同じで、私も雷華様の全てを受け入れとうございます」
 にこやかに答えるが、「りんは醜くないと言うておろう」と鋭い突っ込みが入った。いつも厳めしい声で窘められるが、今の姿で窘められると、いつもよりすごみを感じてしまう。
 けれど、そんな事までも愛おしくて、私は「申し訳ありませぬ」と破顔した。
「夫婦として人間が出来る事も、我とでは出来ぬやもしれぬが」
「私は貴方様のお側に居られるだけで、この上ない幸せにございますから。それだけでも、私は満足にございます」
 弱々しい語勢の言葉を遮り、きっぱりと告げると、雷華様は「そうか」と満足げに呟く。
「では、我の元に来い。りんよ」
「はい!」
 喜色を浮かべながら答えると、いつぞやの様に慌ただしい音が聞こえてきた。
 バタバタと危機迫ってくる音が耳に入ると、否が応でもあの夜を彷彿してしまう。
 最悪の時が再来すると、私はビクリと怖がってしまうが。雷華様が「案ずるな」と囁き、「我の足下に来い」と言ってくれる。私はその言葉に従順に従い、雷華様の右手の方に歩み寄った。
 そうした後すぐに、大勢の武装した武士が押し寄せ、雷華様と私は包囲されてしまう。ガチャガチャと鎧の音を響かせ、目の前に現れると、雷華様に向かって武器と言う武器全てを向けてきた。