雷の轟音か、四足獣が着地した音か。どちらの音なのかは分別がつかないが、地上を唸らせる様にズダァァンッと凄まじい音が轟いた。ぐらぐらと地面が揺れ、空気がビリビリと鋭く震撼する。人々や、動物達が泡を食って一目散に逃げる音が耳に入り始めた。植物ですらも、逃げたいと訴える様にざわざわとその場で自分の身を震わせる。
私を押さえていた剽悍そうな武士達も、悲鳴をあげながら一目散に逃げ出してしまうが。私は目の前の四足獣に釘付けになってしまった。
まるで絵巻物で見る様な龍が、目の前にいる。鱗で覆われた、美しい漆黒の体。手足の先や、胸元で燃え盛っている青々とした炎。美しい輝きを放っている、金色のたてがみと背毛。紅色に塗られた双眸は鋭く、その眼差しで射抜かれたら、誰もが固まってしまうだろう。
私が惚けていると。ギラリと鋭い牙が並んだ口から、地を這う様な声が発せられた。
「待たせてすまぬ」
威厳を纏った重々しい声、いつもとは違って格段に低い声だが。私はすぐに分かった、この声の主を。
じわりじわりと目頭からせり上がってきて、ツウと頬を滑り落ちる。
「必ず、必ず来て下さると思っておりました。雷華様」
涙を堪える様な震える声で答えると、目の前の雷華様は少し目を見開いたが、すぐに「りんよ」と温柔に私の名を呼んだ。
「これが我の真の姿だ。怖くはないか」
ギラリと並ぶ鋭い牙から吐き出される憂いに、私はぶんぶんと首を振る。
「人間では無い、文字通りの化け物なのだぞ。恐ろしくないか、悍ましいと思わんか」
「姿が変われど、雷華様だと言う事は変わりませぬ。どうしたら雷華様に恐れを抱く事が出来ましょうか」
紅玉の様に光る瞳をしかと見つめながら言うと、雷華様は目を見張った。そんな驚きを見せる雷華様の前で、私は艶然と「それに」と付け足す。
「今の貴方様の姿はげに美しく、神々しいではありませんか。どこが恐ろしい化け物でしょうか。いつもと変わらぬ、いいえ、いつも以上に眉目秀麗でございますよ。雷華様」
にこやかに告げると、龍の様な顔がゆっくりと眼前に近づいてくる。
「りんならば、そう申すと思うておったが。実際目の前で言われてみると、まこと嬉しいものだ」
喜色を浮かべながら告げると、雷華様はある事に気がつき慌てて「すまん」と手を伸ばした。
私を押さえていた剽悍そうな武士達も、悲鳴をあげながら一目散に逃げ出してしまうが。私は目の前の四足獣に釘付けになってしまった。
まるで絵巻物で見る様な龍が、目の前にいる。鱗で覆われた、美しい漆黒の体。手足の先や、胸元で燃え盛っている青々とした炎。美しい輝きを放っている、金色のたてがみと背毛。紅色に塗られた双眸は鋭く、その眼差しで射抜かれたら、誰もが固まってしまうだろう。
私が惚けていると。ギラリと鋭い牙が並んだ口から、地を這う様な声が発せられた。
「待たせてすまぬ」
威厳を纏った重々しい声、いつもとは違って格段に低い声だが。私はすぐに分かった、この声の主を。
じわりじわりと目頭からせり上がってきて、ツウと頬を滑り落ちる。
「必ず、必ず来て下さると思っておりました。雷華様」
涙を堪える様な震える声で答えると、目の前の雷華様は少し目を見開いたが、すぐに「りんよ」と温柔に私の名を呼んだ。
「これが我の真の姿だ。怖くはないか」
ギラリと並ぶ鋭い牙から吐き出される憂いに、私はぶんぶんと首を振る。
「人間では無い、文字通りの化け物なのだぞ。恐ろしくないか、悍ましいと思わんか」
「姿が変われど、雷華様だと言う事は変わりませぬ。どうしたら雷華様に恐れを抱く事が出来ましょうか」
紅玉の様に光る瞳をしかと見つめながら言うと、雷華様は目を見張った。そんな驚きを見せる雷華様の前で、私は艶然と「それに」と付け足す。
「今の貴方様の姿はげに美しく、神々しいではありませんか。どこが恐ろしい化け物でしょうか。いつもと変わらぬ、いいえ、いつも以上に眉目秀麗でございますよ。雷華様」
にこやかに告げると、龍の様な顔がゆっくりと眼前に近づいてくる。
「りんならば、そう申すと思うておったが。実際目の前で言われてみると、まこと嬉しいものだ」
喜色を浮かべながら告げると、雷華様はある事に気がつき慌てて「すまん」と手を伸ばした。