手首がこれほどまでに合わさるかと言う程までに縄で縛り付けられ、強制的に地上に繋がる階段を登らされる。
久しぶりに浴びる事が出来た太陽は、あまりにも煌々としていて、あまりにも眩しすぎた。目が眩み、視界が真っ白になりかける。そして地下牢に入れられてから、まともに歩く事もなかったせいで、足下がふらふらとおぼつかず、幾度もたたらを踏む。
「おい、しっかり歩かんか」
優しさの欠片もない言葉をぶつけられ、縛っている縄をぐいと引っ張られてしまう。
ただでさえ鍛えている剽悍そうな武士に、弱り果てた女子が引っ張られるとどうなるか。そんな事、誰でも容易に分かる。私は踏ん張る事も出来ずに、呆気なく前のめりに倒れてしまった。うっと口から呻きが漏れ、全身、特に顎にヒリヒリとした痛みを感じる。
「何をしておる、早く立て。貴様の死地はこんな所ではないのだ」
容赦なく、にべもない言葉を浴びせられるが。逆らう事も出来ず、私はよろよろと立ち上がろうとした。
刹那、小袖からコロリと笛が転がり落ちた。
忘れていた。小袖の袖に投げ込んでから、ずっとそのままだったのだ。
母様から譲り受け、幼き時から使っていた黒色の笛を。長年苦楽を共にしてきた、私の支えを。雷華様と私を結びつけてくれた、大切な物を。
笛を吹いていると、いつも雷華様が来て下さった。笛の音に込めた、心の言葉を聞いて下さって、どこにいても駆けつけて下さった。
今これを吹けば、雷華様は来て下さる?死に近づく私の元に、駆けつけて下さる?
希望が目の前に灯るけれど、すぐにその希望に闇が迫り始めた。
しまった、このままでは笛を取る事が出来ないわ。よしんば笛を取れたとしても、曲を吹く事が出来ない。
私の声は、雷華様に届かない。もう雷華様に、私の声は届けられない・・。
折角小さく差し込んだ希望の光だったのに、闇に飲まれそうになった。
その時だった。
「届かない声なんてないわ。きっと聞こえるわよ」
突然、母さんの最期の言葉が脳にガツンと殴り込む。頭を強く殴る様にして、唐突に現れた言葉に、私はハッとした。
届かない声なんて、ない。
そう・・そうよ、そうよ。届かない声はない。まだ諦める事はないわ。私の声はまだ死んでいないのよ、諦める事はない。どんな声でも、絶対に届くのよ。絶対に!
私は小さく息を吐き出し、大きく息を吸った。そして
久しぶりに浴びる事が出来た太陽は、あまりにも煌々としていて、あまりにも眩しすぎた。目が眩み、視界が真っ白になりかける。そして地下牢に入れられてから、まともに歩く事もなかったせいで、足下がふらふらとおぼつかず、幾度もたたらを踏む。
「おい、しっかり歩かんか」
優しさの欠片もない言葉をぶつけられ、縛っている縄をぐいと引っ張られてしまう。
ただでさえ鍛えている剽悍そうな武士に、弱り果てた女子が引っ張られるとどうなるか。そんな事、誰でも容易に分かる。私は踏ん張る事も出来ずに、呆気なく前のめりに倒れてしまった。うっと口から呻きが漏れ、全身、特に顎にヒリヒリとした痛みを感じる。
「何をしておる、早く立て。貴様の死地はこんな所ではないのだ」
容赦なく、にべもない言葉を浴びせられるが。逆らう事も出来ず、私はよろよろと立ち上がろうとした。
刹那、小袖からコロリと笛が転がり落ちた。
忘れていた。小袖の袖に投げ込んでから、ずっとそのままだったのだ。
母様から譲り受け、幼き時から使っていた黒色の笛を。長年苦楽を共にしてきた、私の支えを。雷華様と私を結びつけてくれた、大切な物を。
笛を吹いていると、いつも雷華様が来て下さった。笛の音に込めた、心の言葉を聞いて下さって、どこにいても駆けつけて下さった。
今これを吹けば、雷華様は来て下さる?死に近づく私の元に、駆けつけて下さる?
希望が目の前に灯るけれど、すぐにその希望に闇が迫り始めた。
しまった、このままでは笛を取る事が出来ないわ。よしんば笛を取れたとしても、曲を吹く事が出来ない。
私の声は、雷華様に届かない。もう雷華様に、私の声は届けられない・・。
折角小さく差し込んだ希望の光だったのに、闇に飲まれそうになった。
その時だった。
「届かない声なんてないわ。きっと聞こえるわよ」
突然、母さんの最期の言葉が脳にガツンと殴り込む。頭を強く殴る様にして、唐突に現れた言葉に、私はハッとした。
届かない声なんて、ない。
そう・・そうよ、そうよ。届かない声はない。まだ諦める事はないわ。私の声はまだ死んでいないのよ、諦める事はない。どんな声でも、絶対に届くのよ。絶対に!
私は小さく息を吐き出し、大きく息を吸った。そして