その答えに、小十郎様は憤慨してガシャンと檻を突き放す様にしてから、荒々しく出て行った。
 階段から漏れる光が遮断され、重々しく扉がバタンと閉じる音が響く。寂寞とした闇が、私に覆い被さった。けれど、上からはまだ燭台の炎が私に光を注いでくれていた。
 雷華様がご無事なら、それで良いの。雷華様が生きて下さっているのなら、私にもまだ光は残っているわ。雷華様はきっと救って下さる。出会ってからずっと、あの方は私を救って下さったのよ。
 だから今回もきっと救って下さる。先に私が死を賜ったとしても、きっと。
・・・
 麒麟が我が手中に入ってしばらく経った頃。拙者は父上に呼ばれた。
 恐らく跡継ぎの話なのであろう。そうなれば、この拙者が家督を継ぐに決まっておる。なんせ、あの明国の麒麟が付いておるのだからな。
 伊達家の新たな当主になれるどころか、拙者はこの日の本一の武将になれる。天下を取れる。
 そう意気揚々と思い、父上の元に馳せ参じたのに。
 目の前におわす父上は、温柔な笑みを浮かべていた。拙者の横に居る、兄者に向けて。
「家督は、藤次郎。お前に譲る事に決めたぞ。これからはお前が、伊達家の当主じゃ」
「ハッ、ありがたきお言葉にございます。父上のご期待に添えられるよう、この伊達藤次郎政宗、粉骨砕身する所存。必ずや伊達家を守り抜き、領土を守り抜いて見せまする」
 深々と隣で父上に叩首し、力強く宣誓する兄者。
 愕然とするのを越え、拙者は呆然としてしまった。目の前の状況が飲み込めず、頭の理解が追いつかない。
 拙者が家督を継ぐのではないのか。拙者の元には麒麟が居て、麒麟の力があるから、拙者が兄者を押さえて、伊達家の当主となるはずではないか。
 これは悪夢か、はたまた聞き間違いかと思っていた矢先。父上の優しい笑みが、こちらに向く。
「小十郎、お前は弟として兄上をしかと支えるのだぞ。兄弟で支え合い、協力し合っていけば、伊達家は安泰じゃ。これからも兄上の隣で尽力せよ」
 分かったかと重々しく告げられ、拙者はハッと我に帰り、慌てて額ずく。
「この小十郎政道。しかと兄者を支え、伊達家の為に全てを捧げまする」
 自分の真の心がこれっぽっちも籠もっていない言葉を込めて告げると、横から「頼りにしておるぞ、小十郎」と、どこまでも素っ頓狂な声が降りかかってくる。