「あの麒麟が、拙者に仕える。フフフ、これだけは主に感謝せねばならぬ。お前の様な物でも、少しは価値があったと言う事だろう。うむ、お前の様な粗末な物も残しておくと言う判断は、やはり間違っていなかった。残して置いたのは間違いだと思った、ただの穀潰しだと思ったが、麒麟ほどの大物が釣れたのだからな。やはり間違いではなかった」
 自賛の言葉を述べ、幾度も首を堅く縦に振りながら「自分は正しい、素晴らしい」と繰り返す。
 その時、私の右目に映る小十郎様が悍ましい化け物に見えた。人の形をしてはいるものの、恐ろしい邪気を纏った化け物が目の前に居る。
 私を醜い化け物と罵り続けた小十郎様の方が、化け物に見えてしまうなんて。
 ハッとした瞬間、私は分かってしまった。醜い化け物だと罵り続け、見向きもしていなかった彼の方が、真に恐ろしい化け物だったのだと。今まで人の形に見えていたのは、囁かれていた偽りの愛があったせい、雷華様の優しさから守られていたせい。
 それが無くなった今、全てが分かった。
 私は醜い化け物。それは確かな事だけれど、真の化け物は私ではなかった。
 真に恐ろしく、悍ましい化け物は、ずっとこの方達の方だった。彼らが真の化け物だ。
 キュッと一文字に唇を結んでから、私はピンと背筋を伸ばした。そうして目の前の化け物をしかと見据えて、きちんと相対する。
「雷華様は、とても優しきお方です。ですが、そのお心にも限りがあるのです。貴方の様に邪な方に仕えるなど、絶対にあり得ませぬ」
 毅然として告げると、小十郎様はガシャンと檻を荒々しく掴み「図に乗るな」と底冷えした目つきで睥睨した。
「拙者の恩情で、生かしておいてやっているのだぞ。汚らわしく醜い化け物の分際で、拙者を愚弄するとは。殺されたいか、貴様」
「今まで生かされた事は深く感謝しておりますが。もう貴方の恩情は、私には不要です。恩情とも呼べぬ恩情など、もういりませぬ。いいえ、そもそも私は貴方からは何も貰っておりませぬ」
 冷淡に告げると、目に見えて分かる程、目の前の化け物の顔に朱が注がれる。そして「良かろう」と唾棄し、私を激しい憎悪と怒りの目つきで貫いた。
「望み通り、死を賜ってやるからな」
 物々しく脅されるが、私はきっぱりと彼を見据えて「構いませぬ」と答えた。