高圧的に告げられる言葉に、私は雷華様の後ろでぶわっと羞恥心に覆われてしまった。
 雷華様に、そんな事を知られたくなかった。汚らわしい女だと思われてしまう。雷華様には、こんな事を耳に入れて欲しくなかったのに。最悪、最悪よ。私、雷華様を失望させたわ、嫌われてしまう。
 昔の事をこうも大っぴらに告げられる事も恥ずかしいし、今更そんな事をと憤慨し、怒りをぶつけたくもなるが。雷華様に嫌われたどうしようと言う思いが、一番強く生まれていた。その為、じくじくと涙が目頭を嫌に突き刺し、羞恥と後悔でいっぱいになる。
 そして耐えきれずにギュッと目を堅く瞑り、つうと涙が頬を滑り落ちた。
 その瞬間だった。
「破瓜を務めたから何だと言うのだ。そして美しかったとはなんだ、りんは今も昔も変わらず美しいままぞ」
 臆す事無く堂々と、そして相手をいなす様に飄々と告げる雷華様に、二つの声が発せられた。
 前に居る、小十郎様から怒りに滲んだ「何だと?」と言う声と。後ろに居る、私の「え」と驚きに滲んだ声が。
 雷華様は、その二つの声に答える事はなく、淡々と言葉を続ける。
「今更我からりんを取り返そうと言うのか。主はすでにりんと言う美しく、愛おしい花を手放しているのに、か。我が足繁く通っている事にも気がつかぬ程。我がりんを毎夜攫い、りんと時を過ごしているのにも気がつかぬ程。主はりんをちいとも見ておらなかったではないか。そればかりか、りんを闇に沈めていた。そうであろう?それだと言うのに、ここぞとばかりに妻と言い、しゃしゃり出てくるとは。笑わせてくれるな」
 フッと嘲笑した言葉に、私の流れた涙は恥から喜びに変わっていく。
「雷華様」
 嬉し涙で滲んだ声を震わせながらポツリと名前を呟くと。雷華様は肩越しに私を見つめて、優しく微笑んだ。その眼差しは温かく「気にするな」と、私に言葉をかけてくれているのが分かる。
 私はゆっくりと雷華様の大きな背に近づき、こつんと自分の額を温かな背にくっつけた。自分の額に想いを乗せて、彼の背中に伝える。この喜びが、この想いが伝わる様に。
 そして後ろからの想いを感じ取ってくれたのだろう。雷華様は「そう言う事だ」と勝ち誇った様に声を張り上げた。