雷華様が淡々と言葉をぶつけると、その冷淡な一言が小十郎様の琴線に触れたのだろう。「貴様、いい加減にしろ!」と再び小十郎様が激昂した。
「重なる無礼をしているのは貴様だ!先程から随分と偉そうに、何様のつもりだ!拙者を愚弄し、伊達家に刃向かうとは!許せぬ!」
「伊達家なんぞ、我にとっては倭国の小さき家の一つに過ぎんが」
「き、貴様!我が伊達家を侮辱したな!まことに許せぬ!地獄でも生ぬるいと思う程の刑を与えてやるぞ!」
「主こそ我が誰だか分かっておらぬ様だから、教えてやろう。小さき家の子よ。我は明国の泰平を支えし、誇り高き瑞獣・麒麟ぞ」
 小十郎様よりも威厳のある声で告げると、目の前からちらほらと「麒麟だと?」という愕然とする声が上がり始める。最初の私と同じような反応をしている者は誰もおらず、「明」「麒麟」と言う単語に、皆戦いている様に見えた。
 勿論、小十郎様もその様な反応をしていた。目を白黒とさせながら「馬鹿な、麒麟だと」と狼狽し、雷華様に視線が釘付けになっている。
「そうだ。我は古くから中華を支えてきた。もう何年も前だが。興宗・・洪武帝が明を建国した時も、我は輔弼として横に居た。だが、今は仕えるに値しない帝ばかりでな。争いが続く明に嫌気が差して、この倭国に参った。少ししたら戻るつもりだったが、戻れぬ理由が出来た」
 ちらと肩越しに私を見つめる雷華様に、私はボッと全身が火照ってしまうが。そんな安穏な態度をしているのは、この場では私だけだった。嘘だと粗を探す事が難しい話に、全員が息を飲み、戦慄している。
 そうして確信を得てしまったのだ、自分達の目の前に居るのが「明から来た麒麟」だと。
 すると目を白黒とさせながら、口元をまごつかせ、狼狽していた小十郎様が「だとしても!」と、場の流れを強引に戻す様に声を荒げた。
「貴様が麒麟だとしても、許せぬ事ぞ!拙者の妻二人に手を出したのだからな!」
 妻・・・二人・・・?
 私はその言葉に信じられないと耳を疑うが、小十郎様は鼻高々に「その後ろの女も拙者の妻だぞ!」と雷華様に言葉をぶつける。
「その女を先に見初めたのは拙者だ!その女はすでに拙者の物なのだぞ!なんせ拙者が破瓜を務め、寵愛を授けていたのだからな!何度その女が拙者の中で啼いた事か!貴様は知るまい、その者がどう啼くか!拙者が美しかったその顔を何度快楽で歪ませたものか!」