その姿にビクリとしてしまうが、すぐに私の視界は大きな黒でいっぱいになった。雷華様が私を背に庇い、彼らから守ってくれているのだ。
「随分とぞろぞろと、鬱陶しい事だな。何用だ」
 雷華様から発せられたとは思えない程、威圧的で冷淡な声。背筋に冷や汗がつうと滴り落ち、肌がぞくりと粟立ってしまった。
 それは私だけではない。雷華様を前にしている者達も恐れおののき、ハッと息を飲み、尻込みするが。
 ある一人だけは、違った。
「何用だと?!随分と上からもの申してくれるな!拙者は奥州で一番力を持ち、陸奥国周辺を治める伊達家当主伊達総次郎輝宗が父!最上家の血を継いだ奥州一の美姫、義姫を母に持つ、伊達家の次男!伊達小十郎政道であるぞ!何と無礼な!」
 小十郎様が声を荒げ、雷華様に威嚇するが。雷華様はフッと鼻で笑い「口上が長いの」と一蹴した。
「器が小さく愚かな者ほど、口上を長々とするものぞ。覚えておくが良い」
「せ、拙者を愚弄したな!拙者の妻に手を出したばかりか、拙者を愚弄するなぞ!生かしてはおけぬ!」
 小十郎様が雷華様の嘲笑に激昂するが、雷華様はそんな激昂を歯牙にもかけず「妻?」と怪訝な声で尋ねる。
「その横に居る醜女の事か?その醜女の衣が乱れているのは我のせいではない、自作自演だぞ。そうかお主、その毒婦と夫婦なのか?!よくもそんな毒婦を召し抱えられるものだな。信じられん」
 飄々とした言葉に、激昂したのは小十郎様だけではなかった。東姫様の顔も怒りと嫌悪に歪み「またそんな事を口にするとは!げに許すまじ!」とキリキリと甲高い声で叫ぶ。高低差がある怒声を同時に発せられるので、きーんと耳鳴りを起こした。
 しかしどうやら、そんな声を我慢ならないと思ったのは、私だけではないらしく。
「喚くな、人間。五月蠅いぞ」
 と、雷華様が地響きを起こす様な恐ろしい声で冷酷に告げた。
 流石に、その声には押し黙るしかなかったのだろう。二人は口を閉ざしたが、憤怒の形相は何も変わらなかった。憤懣としているのが、ここからでもよく分かる。
「貴様等が何を興奮しておるのか分からんが。我は争いを好まんのだ、刀を引いて戻るが良い。それにりんの手前でもあるからな。此度は重なる無礼も、この我に刀を向けた事も不問にしてやる」