「笛の音で呼ばれる様に出会ったが。我はりんを一目見た時に分かった、りんが我の運命の相手だと。喜びが弾け、全身の血が沸騰する様な感覚を覚えたのだぞ。故に、我は毎夜通ってしまった。不得手な変化の術を習得し、何とか人間の姿を保てる様にまでしてな。必死であった、らしくない事を沢山行った」
「変化の術?」
 嗚咽混じりに尋ねると、目の前の雷華様は「左様だ」とにこやかに答えた。
「この姿は変化を施しておる。我の化け物の姿を主には見せとうなくて、嫌われたくなくて。我も主に真の姿を隠しておったのだ」
 朗らかに告げられ、幻滅したか?と尋ねられるが。私はその問いにすぐさま首を振り「雷華様に幻滅するなど」と涙で邪魔をされながらも、しっかりと答えた。
「そうまでして、私に会いに来て下さったのですか」
「そうだ、主の目に早う映りたくてな。しかし今思い返せば・・・一番は、りんを笑顔にさせたかったのだろうな。深い闇に沈んでいき、暗闇に溶け込んでしまうかの様なりんを、我は救い出したかった、我の元で笑う姿を見たかった」
 私の肩に顔を埋める様にして、再び私を優しく抱きしめる雷華様に、私の涙は更に溢れてしまった。それと共に、言葉にならぬ程の喜びや嬉しさも溢れんばかりの大きさになっていく。
 雷華様は、心から私を想って下さっている。今までずっと、雷華様の言葉に偽りはなかったのだ。
 私の覆っている闇をかき分け、私を見つけて下さったのは偶然ではなかったのだ。光を照らし、手を差し伸べてくれたのは、雷華様の心からの行動だったのだ。
 何も嘘はなかった。雷華様の言葉は全て真実で、私を想って下さっている。
 あっという間に悲しみや、虚しい怒りが瓦解していく。その代わりに大きく占めていく、喜びや嬉しさ。そして雷華様への想いが。
 私は弱々しく大きな背中に腕を回し、「私も」とポツリと呟いた刹那。
「貴様等!」
 怒髪天を衝いた、若々しい声が空気を震撼させながら間に割って入り、私の言葉が呆気なく潰された。
 慌てて蔵の入り口を見ると、小十郎様を筆頭に武装をした家臣達が集まっていた。よく見れば、小十郎様の横には衣がひどく乱れた、涙を浮かべている東姫様がいらっしゃる。
 けれど、そんな東姫様は目に入らない。一番目に入ってくるのは、中央で怒髪天を衝き、私達を殺気にも近い目で射抜いている小十郎様だ。