「貴方みたいな化け物は、誰も相手をしないの。誰も貴方に恋をしないし、思いを返す訳ないわぁ。忘れている様だから、言ってあげるわねぇ。貴方は一生醜い化け物、一生涯孤独の汚らわしい化け物なのよ」
 喜びに包まれた言葉に毒が滲み、ズキズキと心が激しく痛み出す。
 そうだ、私は醜い化け物。雷華様は優しいから、こんな私に甘い言葉をかけて下さるの。全て甘言、手の平を返す時が来るの。
 私は化け物、故に誰も私を愛す事はないわ。
「わ、私の様な化け物に」
 涙を堪えながら言葉を吐き出すと、鋭く「待て」と言葉がかかり、私の言葉が止められた。
「自分を卑下するな、と言うたであろう?主は醜い化け物ではない、美しい人間の女子ぞ」
「もう甘言を仰らないで下さいませ」
 俯きながら強く言葉をぶつけると、「甘言だと?」と怪訝な声が降りかかる。
「そうか。あの女に何か言われたな?だが、あんな毒婦の言葉なぞ、何も気にする必要はない。りん、我を信じよ。闇に戻る必要はない」
 闇に戻る必要はない?いいえ。私の居場所は、そこなのよ。戻らなくてはいけない。そこにいなくては、私は生きていけないのよ。
 ギュッと拳を作り、手の平に深く爪を突き立てながら「いいえ」と、強く首を振った。
「東姫様のお言葉だけではございませんから。私は醜い化け物、それは変わらぬ真実にございます。私の居場所は、この闇にございますから」
「何を申しておるのだ」
「私は醜い化け物なのです。勘違い致しませんから。貴方様は優しさで、私を目にかけているだけと、故にこんな私に甘言を囁いて下さるのだと。私、理解しておりますから」
「りん、いい加減にせぬか。その様に卑下して、自分を貶め続けるとは。そして我の言葉ですらも無下にするなぞ、我が許すと思っておるのか」
 初めてぶつけられる静かな怒りに、私はビクリと一瞬強張ってしまうが。グッと奥歯を噛みしめて、震えを止め「真実にございますから!」と私も初めて怒りに震える様な声を張り上げた。
 キッと顔を上げて、雷華様を厳しく射抜いて「同じ事が言えますか」と冷淡に尋ねる。
 そして私は長い前髪をかき上げる様にしてから、横に引っ張り、醜い左側を露わにした。月光に晒される、悍ましい左側を。初めて露わにし、目の前で見せつける。