柔らかく微笑を浮かべた端正な顔が目の前にあり、黒曜石よりも美しい双眸に間の抜けた顔をした私が映っていた。
「え、ど、どうして」
 何故雷華様が、ここに居るの?え、だって、だって雷華様は東姫様と。え。どうして。
 目の前の状況に飲み込めず、目をパチパチと何度も瞬いていると。雷華様は膝を支えに頬杖をつきながら、ふふっと微笑を零した。
「全く、りんはいつも暗い所に居るなぁ。此度は主が笛を吹いてくれたおかげで見つけられたが。次は明るく、分かり安い所におってくれよ。この姿では、ちいとも鼻が効かんのでな」
 いつもの様に優しい言葉をかけられる。そして「先程吹いていた曲はなんだ?初めて聞くぞ。明るい曲調だったが、切なく、やりきれない様な思いがあってなぁ」と、曲の感想をいつもの様に言い出すけれど。私はやはり状況が飲み込めず、唖然としたまま「どうして」と呟いてしまう。
「ん?何がだ?」
「どうして、どうしてここに雷華様がいらっしゃるのですか。今宵からは、あ、東姫様と過ごすはずでは」
「まさか主なのか?我にあの醜女を引き合わせようとしたのは」
 笑顔が怪訝と嫌悪に歪められ、私は「あ、い、いいえ?」と曖昧に首を振った。そんな反応に、雷華様は「あの女か」と苦々しげに言葉を零す。
「え?」
「主の様子を見るに、あの女だな?大方、りんを送る我の姿を見られたと言う所か。それで愚かにも我に懸想し、近づこうとしたのであろう。りんが邪魔になり、ここに主を押し込めたのだな?違うか?」
 何一つ言っていないのに、まるでずっと見ていた様にズバリと言い当てられて、私は驚きで固まってしまった。その反応で雷華様は「やはりか」と舌打ちし、「あれほどまでに性悪な毒婦は初めてだ」と、ぶつぶつと文句を言い始める。
「ら、雷華様。あ、東姫様とお会いしたのに・・・私の元に参ったのですか?」
 流暢に流れる怒りの言葉を遮り、訥々と尋ねると。雷華様は文句を垂れ流すのを辞め「当たり前だろう」と朗らかに笑った。
「我があの様な醜女と共に時を過ごす訳なかろうて。我が共に時を過ごしたいのは、りん、お主ぞ。りんでなければ、こうして姿を見せる事もない。無論、毎夜通いつめ、我の元に攫う事もないわ」
 舞い上がってしまいそうになる程の嬉しい言葉をかけられ、じわりと視界が歪んでくるが。その刹那、東姫様の言葉が鋭く反芻される。